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歩行者用信号機が点滅を始める。
オレはアクセルを踏む足を、ブレーキペダルにのせる。
緩やかに速度をおとされた我が愛車は、信号が赤になるのと同時に止まる。
と、突然後方から急ブレーキ音。
バックミラーに目をやると、後続車が突っ込んできている。
この交差点を渡るつもりでいたら、前の車が止まりやがったんで、あわててんだろう。
オレはブレーキを踏む足を緩め、少し車を前進させる。
なんとか衝突を免れた後続車を見て、オレはほくそえむ。
もしオレが速度をおとさなければ、オレはぎりぎり黄色信号でこの交差点に入っていただろう。
しかし、そんなオレの後続車の交差点突入時は、赤信号になっていたはずだ。

ふ~ん、信号無視するつもりだったんだ。

その時、横から二人乗りの自転車が通り過ぎていく。
で、赤信号を渡っていく。
自転車にも、軽車両としての罰則規定がある。
どこぞの自治体は、それをその通り実施しているらしい。
おかげで、二人乗りや並走といった、どこの高校でも見られる通学風景は、見られないらしい。
是非、全国規模でやってほしいものだ。


そうこう走るうちに、中央線のない田んぼ道にはいる。
この道は、路側帯に入らないと二台の車がすれ違うことが出来ない。
オレは、左側に車をよせる。
路側帯どころか、アスファルトの舗装の境目までよせる。
それで、どうにかぎりぎり対向車とすれちがう。
オレがそこまで端によってるのに、すれちがいがぎりぎりだったのは、対向車が路側帯を踏もうともしなかったからだ。
なんかむかつく。

そんな時だった。
幼げなかわいらしい声がした。
「そこの車、止まるちゃお。」

オレは辺りを見渡す。どこにも車はいない。

「こら~、止まれ言うのが聞こえないちゃおかぁ!」
突然、運転席側のドアがぽこぽこと叩かれる。

え、オレ?
あ、やべえ、50キロでてるよ。
自分のことを言ってたのに驚くと同時に、オレは並走する物体に目を見張る。
どういう仕組みなのか、丸い球体が宙に浮いている。
そしてその下には、水滴みたいな頭に、ちっこい体をした生命体?が、ポケバイに乗っていた。
足なんかは、くるぶしから下しかないぞ。お陰で、ポケバイとマッチして、なんか愛らしさを感じる。

オレは車を止め、窓を開ける。
その謎の生命体?もポケバイを止めると、なんと、警察手帳を見せてきた。
「警視庁秘密捜査官警視正、チャオ刑事ヅラーリン!」
…って、ここ東京じゃないお。管轄外じゃん。
戸惑うオレをよそに、チャオ刑事を名乗るその生命体?は、警察手帳をつきだしたまま、続ける。

「特殊チャオ警察法、第一条!チャオ刑事は、いかなる場合でも、令状無しに犯人を逮捕することが、出来るちゃお!
 第二条!チャオ刑事は自ら犯行現場を目撃し、かつ、犯人の身柄を確保した時に限り、既存の法律にとらわれず自らの判断で、犯人を処罰することが、出来るちゃお!
 第二条補則、場合によっては、抹殺することも許されるちゃお!」

…、おいおい、現行犯でも、刑が確定するまでは、容疑者だろうが。

チャオ刑事は警察手帳をしまうと、あきれる、もとい、戸惑うオレに、免許証を出せと言ってきた。
オレは財布から免許証を取り出し、渡した。
免許証を見ながら、なにやら調書を書いている。
「君、自分がナニしたのか、分かってるちゃおね?」
「すみません、ちょっとスピードを出しすぎてました。」
ここの制限速度は、40キロだった。
「スピード?」
調書を書くチャオ刑事の手が止まる。
「スピードって、そんなのどうでもいいちゃお!」
突然怒り出すチャオ刑事。
「スピードメーターを見るちゃお。180キロまであるちゃお。180キロまでだしていいから、180キロまであるちゃお。180キロださないってことは、車に対して失礼ちゃお!!」

え?

窓を開けきったドア枠に両腕のわきの下を乗せる形で飛び乗ってきたチャオ刑事は、スピードメーターを指差す。
そして免許証をオレに投げつけてきた。
「貴様はもっと、重大な犯罪を犯したちゃお!」

スピード違反以外に?
って、180キロまでおっけーって言うヤツだもんなあ。
正直、オレは見当もつかなかった。

「貴様、路側帯に入ったちゃお!」
チャオ刑事の言葉に、オレは首をかしげる。
だから?

「むっかぁちゃお!路側帯に入る時は、方向指示器を点灯させて、一時停止して安全確認するちゃお!」
ああ、そういや、そんなのがあったなあ。
「もし路側帯に誰かいたら、大変なことになっていたちゃお!なのに貴様は罪の意識はおろか、反省する態度もみられないちゃお!」

そうなのかなあ?180キロだすほうが、大変なことになると思うけど?

「極悪非道な貴様は、免許停止255日、罰金65535マッカちゃお!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第140号
ページ番号
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この作品について
タイトル
チャオ刑事ヅラーリン
作者
あさぼらけ
初回掲載
週刊チャオ第140号