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しばらくはハート型を浮かべたまま体を左右に揺らしていたが、またまた頭上の物体は球体に戻る。
ふと、我に返ったらしく、きょろきょろと辺りを見回す。
そしてオレと目が合うと、後ろへ飛びのいた。
「お、お前、本官を誘拐したちゃおか?」
チャオ刑事は震えながらそう言った。

はあ?
オレは、なんて答えていいのか、分からなかった。
「い、いくら本官がかわいいちゃおからって、これ以上罪を重ねちゃ、駄目ちゃお!」
「な、なんも悪いことしてませんって。」
なぜか罪人にされかけているのを、オレはとっさに否定する。
「じゃあ、お前はかわいい本官を、誘拐したんじゃないちゃおか?」
オレはうなずく。
「やっぱりお前、嘘つきちゃお!極悪人ちゃお!!」

はあ?
何を根拠に、そんな結論に達するのだろうか。オレは不思議でならなかった。
「本官がかわいくないちゃおって、嘘をつくのもたいがいにするちゃお!」
う~む、そうきたか。
オレはなんだか、あきれてきた。しかし、そんなオレにはおかまいなしだ。
「最近、かわいい児童が連れ去られる事件が、多発してるちゃお。お前をこのまま放っといたら、必ず事件をおこすちゃお!」
おいおいおい、濡れ衣もいいとこだなあ。

「特殊チャオ警察法、第九条!チャオ刑事は、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺することが出来るちゃお!」
え?抹殺?
オレはその物騒な言葉に驚く。
「ああ、本官も抹殺なんてしたくないちゃお。でも、こんな極悪人を放っておいちゃ、いけないちゃお。」
「ちょ、ちょっと、ナニ言ってんですか。なんで殺されなくっちゃいけないんですかあ。」
オレも、訳分からん理由で抹殺など、されたくはない。
「貴様、かわいい本官を誘拐したのに、しらをきるちゃお。きっと、今に大犯罪を犯すに決まってるちゃお。」
「だ、だから!誘拐なんてしてませんって。」
おいおい、結局そこなんかい。被害妄想もいいとこだ。
なんかどおでもよくなって来るのだが、抹殺されるのも勘弁だ。
「もし、いや、本当にお前が誘拐犯じゃないちゃおならば、かわいい本官に、おいしいジュースの一杯でも、くれてもいいはずちゃお。それがないってことは、間違い無いちゃお!」
う~む、なんかその理由もなあ。
オレは、しょうがないんで、外の自販機から買ってくることにした。
「待つちゃお。」
そんなオレを引き止める。
「お前、なんで冷蔵庫あるのに、冷蔵庫から出さないで買ってくるちゃお?」
いや、冷蔵庫言っても、ここ数年使ってないから…。
「わかたちゃお!見られちゃまずいもんが、入ってるちゃお。きっと死体が入ってるちゃお!」
そう言うとチャオ刑事は、冷蔵庫を開ける。

「ちゃお?」
冷蔵庫を開けたチャオ刑事の動きが止まる。
オレも、冷蔵庫の中を覗き込む。
扉の後ろに、雪○の牛乳パックがあった。二本ほど。
あ、忘れてた!
その時、オレの記憶が鮮明によみがえる。
二本買ったのはいいが、片方を半分ほど飲んで、そのままいれっぱなしだったっけ。
「こ、これは…。」
その時、チャオ刑事は体の振るえを押さえながら叫ぶ。
「これは、チャオの大好物、腐った牛乳!!」
な、なんと、こんなもんが大好物なんか?
チャオ刑事は、目を輝かせながら振り返る。
「これ、もらってもいいちゃおか?」
オレはうなずく。
「お前、やっぱりいいヤツちゃお!」
チャオ刑事は、牛乳パックを二本取り出すと、冷蔵庫を閉める。
半分だけ飲んだ方の牛乳パックを両手でしっかり持つと、軽くジャンプし、両足を前方に伸ばす。
そのままお尻から着地し座り込むと、すでに開いてるのとは逆の方のクチを開け、牛乳パックの上面を四角く開ける。
上面が開放された牛乳パックを、逆さにしながら持ち上げると、その下であんぐりとクチを開ける。
右手で軽く牛乳パックを叩くと、中から白くて四角いカタマリが、チャオ刑事のクチなかに滑り込む。
「う、うまいちゃお~!」
チャオ刑事はあまりのうまさに、その場で一回転。
その勢いで空になった牛乳パックを放り投げる。
なんとも言えない臭いが、辺り一面に飛び散る。

おえ~。
思わず吐きそうになる。
「こ、こんないいもん、本当にもらって、いいちゃおか?」
苦しむオレを尻目に、チャオ刑事はもう1本の牛乳パックを持ってにこにこしている。
オレはうなずいた。

「わ~い、ありがとうちゃお。早速ガーデンのお友達に自慢してやるちゃお!」
そう言ってチャオ刑事はオレの部屋から出て行った。
しばらくして、ポケバイのくそやかましい発進音がした。

あいつ、あのまま北海道まで帰るんだろか?
とりあえず換気しなくっちゃ。
開け放つ窓から、冷たい外の空気が入ってくる。いつの間にか、東の空が赤くそまっている。

なんて最悪な一日の始まりなのだろう。
やっぱ泣いてるあいつを、放っておくべきだったかなあ。



おしまい。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第142号
ページ番号
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この作品について
タイトル
チャオ刑事カツウラ
作者
あさぼらけ
初回掲載
週刊チャオ第142号