チャオカラテ道場での小さな話 つづき

大会当日。
俺らはかなり練習したから、けっこう自信はあった。
でもやっぱり全国大会だ。さすがに緊張した。
俺らはまったく違うブロックだったので、最終トーナメントの決勝まで一緒に戦うことはなかった。
ん?最終トーナメントの決勝?あ!俺ら、そこまで勝ち抜いたのかぁ....!?
これには俺らはお互いにものすごく驚いていた。
そして決勝。
いままで気づかなかったが、俺とアイツは、はじめて正式に勝負することになった。
俺らは審判が試合開始の合図を出すのを、緊張しながら、お互いににらみ合っていた。
審判が─
「試合開始!」
と威勢良く言う─
そう思ったときには、もう俺らは駆け出していた。
まわしげり─ぐるぐるパンチ─続いて目からビーム(え!?)・・・・

試合は、10分以上続いていた。
ってかそんなわけはないはずなのだが、審判も観客も出場者も、すっかり俺らに見とれて、時間が過ぎたのに気づいていないのだ。
でも俺らはそんなことは気にも留めず、ひたすら戦っていた。

一緒に練習したり遊んだりしていたときのことを思いながら─それでも、俺らはお互いに牙をむけていた。

審判が我に返ったらしい。
それも、ものすごい音を立ててあいつが俺に投げ飛ばされ、土俵から落ちてしまったからだ。
審判は、あわてて、
「し....勝者、ドゥゼィ選手!」
と、俺の名前を上げた─俺が、勝ったのだ。

あいつは、何の怪我もなく、俺が表彰されているときも、準優勝者の場所でうれしそうに見ていた。
あいつは、帰りの電車からおりて、別れるときに、
「はは....やっぱ元ノラはお金持ちには勝てないね....強くなったね、バイバイ!」
と苦笑しながら言って、、手を振って去っていった。
俺には、どうしてもその言葉の中に引っかかるフレーズがあるような気もしたが、そのときは良く分からなかった。

次の日。
俺は今日もあいつとの待ち合わせ場所であいつを待っていた。
でも、なかなかあいつは来なかった。
いつも時間だけは必ず守るやつなのに、おかしいなぁ....
俺は、どうしても気になって、あいつの家にいってみた。

あいつの家について、俺は目を丸くした。
あいつのご主人様愛用の車もない。
庭においてあったトレーニング器具もない。
あいつが趣味で育てていた植物達のプランターもない。
俺は呆然としていた。
そんなはずはない。
あいつが、俺に何も言わず、急にいなくなるはずは無い。
いつも一緒だったじゃないか。
いつも一緒にトレーニングしたり、ふざけあったり、遊んだりしたじゃないか。
どうして?どうして、あいつは、俺に何も言わずに.....

そこへ、隣の家のおばさんが出てきた。
俺はトウトツに、
「あの!ここん家のあいつは、どこに行ってしまったんですか!?」
と、おばさんに聞いた。
おばさんは、一息ついて、
「隣の家のチャオとそのご主人様のことね─2人は、急にご主人様のほうのカラテの都合で、遠い国にいってしまったわ─とても忙しそうだったし、この国を出てしまったから、私に挨拶だけして、だれにも電話できなかったのよ....」
というと同時に、俺は、おばさんの足にしがみついていった。
「そんな!そんなはずないだろう!俺らは、いつも一緒だったんだ!あいつが何も言えずに外国にいってしまうわけないだろう!いやだ、そんなの.....」
俺は、あいつの前で、一度も涙を流したことはなかった。
でも、初めて、あいつのことで、泣いた。
その場にへなへなと座り込んで、長い間、ずっと泣いていた。
道場の時間も忘れて、ずっと泣いていた。

涙も枯れたころ、おばさんが、俺に濃い紅茶を入れてくれた。
息が詰まりそうで、一口も飲まなかったが、おばさんは俺を家に送り届けて、俺のご主人様にそのことを説明していた。
俺は、自分の部屋に向かう間も、ずっとただ一つのことを考えていた。
─あいつが、最後に俺に言ってくれた言葉・・・もしかしたら、あいつのご主人様の話からこのことを予知して、言ったのかもしれない─

俺は、それ以来、「俺ら」という言葉を使わなくなり、
「俺は、今日も」のフレーズを、繰り返すこともなくなった。


それから3年。
俺の家の電話がけたたましくなっている。
俺は、のろのろとその電話をとった。
「あ!ドゥゼイ君?ぼくだよ!またもどってきたんだ!」
懐かしい声が返ってくる。
俺は、顔をほころばせて、
「あ!お前か!?おかえり!」
と、その声に答えた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第106号
ページ番号
2 / 2
この作品について
タイトル
チャオカラテ道場での小さな話
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
週刊チャオ第106号