チャオ同好会Extended(エクステンデット)・後編
<後編>
食事と温泉を終えるや否や、北川部長がかばんからとんでもないものを取り出した。
【北川】「聖地でチャオを育てる!これぞチャオラー冥利に尽きるわね~っ!」
・・・そう、ゲームキューブ一式。これを旅館のテレビに繋いでやるってか。
道理でずっと巨大なかばんを重そうに持ち歩いてた訳だ。
そういえば持ち物になぜか「ゲームキューブのメモリーカード」ってのがあったなぁ。
何で持ってくるのかよく分からなかったが、とりあえず持ってこないとどうなるか分からないので持ってきた。こういう意味があったとは。
俺が呆然とこんなことを考えている間にも、部長はケーブルを繋いでセットして、電源を入れた。
【北川】「そろそろこの子は1次進化が始まるかな?」
・・・はぁ。まぁ、やってる事は普段のチャオ育てと何ら変わらない訳だが。多分部長にとってはここでやることに重大な意味があるんだろうなぁ。
結局その晩、一晩中部長はチャオを育てていた。
俺と月島先輩は後ろで座って見つつバレないように睡眠時間を重ね、何とか翌日の寝不足は回避した。
そして2日目も京都観光は続く。
しかし、あの部長はどういう神経してるんだ。一睡もしないでピンピンしてるなんて。
ところが、大問題発生。
京都市内で、道に迷ってしまったのだ。
やっぱり北川部長も前日寝なかった影響があるのだろうか。
元々京都は道路が碁盤目状になっていて、交差点名は交差する2つの通りの名前を繋げた名前が多いから、迷いにくい街のはずなんだが。
(例えば、四条河原町というのは四条通りと河原町通りが交差する場所にある)
しかし、これを俺が知ったのは京都から帰ってからの話で、この時分かるはずがない。
【北川】「ったく、どうなってるのよ・・・ちょっとアンタ、分からないの!?」
【俺】「分かる訳ないですよ・・・」
っていうか人に責任押し付けるな。
【北川】「早くしないと予定の時間に帰れないわよ・・・」
【月島】「そうだ、誰かに聞いてみましょう。」
【北川】「そうね!それじゃアンタ、よろしく!」
【俺】「俺かよっ!」
いや確かに誰かに聞くという選択肢は間違ってないが。
・・・という訳で俺は、偶然そこを自転車で通りかかった男性を呼び止め、
【俺】「すいません、ここにはどう行けば・・・」
【男性】「ああ、それならこの通りをまっすぐ行けば、コンビニがある交差点に出るから、そこを右に曲がって・・・」
と、教えてくれた。はぁ、助かった。
【俺】「ありがとうございます!」
【男性】「いえいえ!」
するとその男性は、再び自転車をこぎ始めた。
その一瞬、俺は見た。いや、幻や見間違いだったのかも知れない。
その男性が左手に持っていたケータイに、水色のチャオらしき生き物のストラップがあったことを。
どうやら、北川部長や月島先輩は気づいてないらしい。
だったら言わない方がいいな。言ったら大騒ぎになりかねん。
その男性の言う通りに進むと、目的地はあった。ふぅ、ピンチ脱出。
こうして、京都旅行は終わった。
帰りの新幹線でやはり自由席を無理矢理ゲットすると、北川部長は完全に寝てしまった。さすがに疲れたのだろう。
こりゃラッキー。俺は道を聞いた時の出来事を、月島先輩に話した。すると彼女はニコリと笑って一言。
【月島】「やはり『聖地』京都なんですね・・・」
あぁ~、俺は幸せだぁ。月島先輩の笑顔を独り占めできるなんて・・・横で寝てる人が邪魔だが。
チャオ同好会に入って良かったと思う唯一の瞬間。これを味あわずに東京に帰ってなるものか。
・・・にしても、そういえば変だなぁ。北川部長もチャオのぬいぐるみをかばんにつけてるのに、あの男の人は気づかなかったのかなぁ。
チャオを知ってるんだったら、声をかけてもおかしくなかったのに。まぁいっか。
そんな事を考えていると、車内アナウンスが終点・東京駅を告げていた。
・・・と、普通ならこの辺で話は終わるところだったが、この数日後の話もしなければならない。
たまたま暇である有名な京都に住むチャオラーのブログを見ていたら、こんな記述を見つけた。
「この前買い物に行こうと自転車に乗ってたら、高校生ぐらいの3人組が道を聞いたので教えてあげました。
んで、その中の1人のカバンをよく見たら、なんとチャオのぬいぐるみが!
思わず声をかけようとしてしまいましたよ(笑)
いやぁ、チャオ育ててもう何年も経ちますけど、こんなことってあるんですね。」
え?まさか、俺達があの時会った人って?
・・・まさかなぁ。
続く(嘘)