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私の名前は風間辰巳。メガネが似合う渋い男。
職業は冒険家だ。

風の向くまま気の向くまま、世界をあちこち渡り歩いてきた。
よく勘違いされるが、無職ではない。冒険家だ。

ときに危険を承知で、侵入者撃退用のトラップが張り巡らされた古代遺跡を見に行き、
ときに危険を承知で、大海に沈む財宝を引き上げようとする人達の船に同乗させてもらい、彼らが財宝を引き上げる姿をこの目で見た。

立派な、冒険家である。

ちなみに私には帰る家が無いが、ホームレスでもないと言っておく。冒険家である。





人の手の届かない、広大な森の中を、私は一歩一歩土を踏みしめ進んでいく。
深緑の葉が鬱蒼と生い茂り、天からの陽の光を遮断する。
まだ時刻は昼前だと言うのに、森の中は薄暗い。
その薄暗い空間にわずかに差す上空からの木漏れ日が、私の眼前に幻想的な光景を生み出している。

私は今、『小動物の森』と呼ばれる場所へ向かっている。
小動物の森とは、名前のとおり小動物達が暮らしている森らしい。
今まで、それを発見したは者はいないと言う。

ならば、私が第一発見者となってやろうではないか。
今まで誰も辿りついたコトが無いのは、恐らく皆この広大な森に行く手を阻まれ志半ばで命を落として行ったに違いない。
危険な場所と知りつつ、何故あえて進みゆくのか。

好奇心。

これ以上私に何か言わせようとしているのなら、それは野暮と言うものだ。
私はこれ以上の言葉を持ち合わせていないし、この言葉のみで十分だと確信している。
さぁ、小動物の森は目の前だ。
私は高鳴る興奮を抑えながら、どんな乗り物にも負けない最高の移動手段をせっせと動かしていく。
一応言って置くが、金が無く車なんてもってのほか、自転車すら買えないという状況を嘆いているゆえの負け惜しみではない。決してだ。





ちなみに後にわかったことだが、今まで小動物の森が発見されなかったのは、ただ単に誰も興味が無かったからだという。





「うわー!」

森を歩き続けること数時間、ついに私は小動物の森へ辿りついた。小動物の森と言うよりは、小動物の村と言うのが相応しい。
限りないように思われる森の中に、広場が出来ていた。
そしてその広場には木造の家が建っていた。
立派なログハウスのような形の家だったり、木で出来た壁の上にわらで作った屋根を乗せた家なんかもある。
それらが立ち並ぶ様は、まさに村である。私は自分がガリバーになったかのような感覚を覚えた。

何故そんな感覚を覚えたか。立ち並ぶ建物全て、私の腰より高さが低いからだ。

私が、一体全体コレはどういうコトなのか、怪獣映画のセットってこんな感じなのかななどと考えていると、先ほどの叫び声が私を出迎えたのだ。

読者諸君の中には、さっきの声は私が小動物の森を見つけたことに対する喜びの声を上げたのだろうと思った方もいるだろうが、真実はそうではない。
声を張り上げたのは、私の目の前にいるトラ――

家々と同じようにミニミニサイズの、小動物のトラであった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第216号
ページ番号
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この作品について
タイトル
~冒険家、風間辰巳~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第216号