あと少しだから。
きれいな光が町中に広がっている。
よくもまぁ此処までライトアップできる金があったら、
俺にすこしは金を分けて欲しいものだ。
いや、金で俺が死ぬことを止めれるものか。
俺は仕事もなく悪友と一緒に町をバイクで駆けめぐった。
だが、もうそれはない。
内相の一言「彼奴ら若者は国のゴミだ。」
それで変わった。
俺と一緒にいた奴は全員暴動をしに町に行ってしまった。
そして、全員捕まった。
いや、あの時誘いに乗れば良かったのかもしれない。
でも、俺は出来なかった。
このフランスの地をどうしても壊せなかった。
俺の両親が眠っているから。
でも、友人も恋人もペットさえもいない。
もう、何も俺が死んで悲しむものはいない。
俺は死に急いだ。
後はこの廃ビルの屋上から飛び降りればいい。
・・・その時だった。
かすかに、何かが動く音がしたのは。
俺はその音で死への時間が少しばかり短くなった。
その物音のする方へ近づいてみる。
そこには・・・怪我をしたライトカオスチャオがいた。
かわいそうに。カオスチャオだから死ねないのだ。
いたくてもいたくても、俺とは違って。
おいおい、こいつを病院に連れて行くのか?
早く死ねばいいじゃねぇか。こんな奴、ほっておけよ。
服まで着ているチャオだぜ?金持ちだ。
どうせ、俺自身を馬鹿にしているんだよ。
そう悪い心が叫んでいる。
俺はそいつが嘘をついているのかと思った。
でも、痛そうだった。俺は傷口を探し当ててそこを見る。
体液が出ているそこは丸い傷跡、
そして、そこに食い込んでいる古い銃弾。
服も昔の服と言うことに気付いた。
デザインでなく本当にぼろぼろだったことにも。
そして、その銃弾を俺は見て驚いた。
銃の工場で働いていた頃、なおかつ銃に詳しい友人がいたので、
(もちろんそいつもそこを止めて暴動している)
俺はその銃弾が何かを知っていた。
それは紛れもないナチス軍の使っていた銃弾。
何と、このチャオは60年も傷を負ったまま彷徨っていたのだ。
この地を。
俺は死ぬことを止めて、あわてて病院へ走った。
たかが十数年生きて何が死ぬだ?
60年も痛みに耐えながら生きてきたこいつに恥だ!
そうだ、たかが政府に罵倒されてショックを受けたくらいで。
こんなにも長く傷を負って彷徨っていて、
それでも懸命に死ねないのが理由だろうとも生きてきて、
そんな奴の隣で死のうと思っていただなんて!
おい、後少しだぞ?がんばれよ。
病院が見えてきた。よし、後はあそこに行けば・・・。
どんと乾いた音がした。
俺の脇腹に激痛が襲う。
・・・残った暴動グループの流れ弾か・・・。
だが、俺はそれでも進んだ。
玉砕のように。・・・やっぱり俺は死ぬ運命だったのかな。
でも、おまえは生きてくれ。
おまえの苦痛さえ取り除くことが出来れば、
やっぱり俺にはもう心残りはない。
そら、あとすこしだ、あとすこし・・・。
俺はチャオを思い切り病院に投げる。
もう、俺自身は致命傷だと言うことが自分でも分かった。
そして。
俺は輝く町を二度と振りかえらずにたおれこんだ。
おまえはもう助かったんだ。
次は俺が「あとすこし」のカウントを始めるから・・・。
終わり。