第24章:希望を廻して、未来へと繋ぐために

惑星ケレイオス近海、サグラノ家艦隊旗艦・カグラヅキ。
ブリッジにカメラを据えた、その先に1人の男が立った。

【男性】「諸君、見たまえ!この圧倒的な艦隊を!!同盟の艦隊など恐るるに足らず!!」

…彼の名は、ソウジ=サグラノ。サグラノ家の現当主・ゴウゾウ=サグラノの次男で、サグラノ家艦隊の総司令である。


        【第24章 希望を廻して、未来へと繋ぐために】


【ソウジ】「このケレイオスは今、敵艦隊の卑劣なる奇襲に遭い、周囲のガス惑星を占領された上に激しい攻撃に晒されている!
      だがもう恐れることはない!この艦の数々を見れば、恐怖と不安は自ずと自信と確信に変わるであろう!」

彼の演説は続く。ケレイオスに集結しているサグラノ家艦隊の全ての艦、そしてケレイオス本星にも放送は流れている。

【ソウジ】「だからと言って、決して驕り、油断してはならない!敵は同盟屈指のかの女傑・イレーヌ=ローズミット元帥率いる第3艦隊である!
      十分に警戒し、対策し、迎撃し、撃破せよ!!さすれば、ケレイオス、ひいてはこの銀河共和国全体、やがてはこの戦乱渦巻く銀河全ての…」

…だが、ソウジがそこまで演説したところで、突然カグラヅキに警報が鳴り響いた。騒然とするカグラヅキのブリッジ。

【ソウジ】「何事だっ!!」
ソウジが怒鳴るように状況を聞く。その横で、若い士官が慌てて演説の中継を切る。
それに対し、カグラヅキのオペレーターがこう叫んだ。
【オペレーターA】「未確認の超光速航行反応です!この近くで『浮上』してきます!!」
【ソウジ】「まさか、奴ら…!」

次の瞬間、カグラヅキのブリッジの目前に、突然1隻の戦艦が現れた。
カグラヅキのクルーが状況を確認する時間を与えることなく、その戦艦は主砲を至近距離でカグラヅキに向け発射。閃光と爆煙が、黒い宇宙に広がった。

…その戦艦こそ、他でもない、惑星同盟軍の練習艦、クロスバードである。
【ゲルト】「どうだっ!?」
【レイラ】「…駄目だわ!敵艦健在!!」
【カンナ】「さすがにプラン通りにはいかせてくれないわね…!全速で座標X-6-7に移動して!!」
【ミレア】「了解、やり、ます!!」
ミレアがキーボードを叩き、クロスバードは急速旋回の後加速。カグラヅキから一気に離脱した。

カグラヅキはクロスバードの主砲を至近距離からモロに食らった…が、そこはサグラノ家艦隊の旗艦である。撃沈、とまではいかなかった。
【ソウジ】「ぐぬっ…!状況を報告しろ!!」
【オペレーターA】「主電源は無事、艦機能の維持は可能ですが…、第1、及び第2エンジン大破!格納庫も通信途絶!航行不能です!!」
ブリッジの照明は落ち、主砲直撃の衝撃でソウジも頭から流血していた。だが、そんなことを気にしている場合ではない。ソウジは叫ぶように命令する。
【ソウジ】「ブリッジが生きてりゃ指揮は執れる!!全艦に命じろ!!緊急戦闘態勢、あの戦艦を何としても沈めろ!!!」

その命令を出した直後、別のオペレーターが報告した。
【オペレーターB】「敵艦解析…照合!改修されているようで少し見た目は異なりますが、やはりあの艦に間違いありません!!」
【ソウジ】「『あの艦』…だと?…まさか…」
【オペレーターB】「はい。1ヵ月にわたる漂流劇から帰還したという同盟の練習艦・クロスバード…コードネーム『スイーツガール』です!」


【カンナ】「…はっくしょん!」
【クーリア】「大丈夫ですか…?」
【カンナ】「誰か噂でもしてるのかしら…?」
…今やカンナの噂など銀河のあちこちでされているであろう、というのはさておき。
同盟内であれだけ話題になったクロスバードである。当然、その情報は連合や共和国にも流れていた。そして傑出した者には、本人の与り知らぬところで思わぬ愛称がつく、というのが世の常である。カンナ、ひいては練習艦であるクロスバードそれ自体が、艦長であるカンナの「スイーツ好き」というどうでもいい情報だけが先行した結果、「スイーツガール」という凡そ戦艦とは思えない愛称、コードネームとなって銀河中に広がったのだ。

とにかく、くしゃみをしている場合ではない。カンナはすぐ気を取り直し、指示を出す。
【カンナ】「ジェイク、アネッタ、お願い!」
【ジェイク】「了解!ジェイク、出る!」
【アネッタ】「アネッタ、出ます!」
ジェイクのアンタレスとアネッタのアルタイル、2機に出撃を命じた。その合図で続けて発進し、クロスバードの防衛にあたる。
既にサグラノ家艦隊はカグラヅキから離れるようにして逃げるクロスバードに対し猛攻撃を開始していた。光の線が次々とクロスバードを掠める。
【アネッタ】「さすがにこの状況じゃあ狙撃は無理か…防御に徹するしかないわね」
【ジェイク】「久しぶりに出撃と思ったらこれだから面白くねぇよなぁ…」
【カンナ】『そこの2人!しっかり頼むわよ!』
軽く愚痴ったジェイクに対し、カンナから通信でツッコミが飛ぶ。
【アネッタ】「なんであたしまで…っと!」
アネッタがそうこぼしたところに、ビームが飛んでくる。自前の盾で防いだ。


【ソウジ】「…しかし、まさかスイーツガール1隻だけではあるまい…?」
ソウジがそう首を傾げた。常識的に考えれば、これに合わせて同盟の第3艦隊が攻撃を仕掛けてくるはずだが、その様子はまだない。
【オペレーターA】「…いえ、他の戦艦は確認されていません。敵艦、スイーツガール1隻のみです」
【ソウジ】「何だと…?」
オペレーターの言葉に、ソウジの動きがピタリと止まった。そして、そのまま思考を巡らせる。
大艦隊相手に1隻で突っ込むなど、余程のことがなければ有り得ない。今回は特に、追撃できる戦力があるにも関わらず、である。
そして、そんな動きをする理由というのは、大抵相手の想像を超えたところにある。それを敵側が想像しろというのは、無理というものだ。
…そこまで結論を出して、こう指示を出した。
【ソウジ】「各艦に告ぐ!敵は1隻のみだ!全力で沈めろ!!但し、常に警戒は怠るなよ!!」


一方、クロスバードを単独で送り出した同盟の第3艦隊主力は、ケレイオス本星から少し離れたデブリ帯に潜んで様子を見守っていた。
【副官】「クロスバードとサグラノ家艦隊、交戦状態に入った模様です」
【イレーヌ】「…見ればわかる」
副官の報告を、イレーヌ元帥はそう軽く言い遮った。
彼女は戦況が映し出されたモニターをじっと見つめたまま、腕を組んで動こうとはしない。
だが、しばらくしてから副官にこう命じた。
【イレーヌ】「いつでも行ける準備はしておけ。どこぞのおばさんのちっぽけなプライドよりも、同盟の勝利の方が何万倍も大事だ…!」
【副官】「はっ!」


さて、クロスバード。サグラノ家艦隊の猛攻撃の中、敵艦隊から少しづつ離れるように動いている。
【レイラ】「…敵艦から人型兵器の出撃を複数確認!サグラノ家の汎用機、RSA-167A『オリヒメ』だと思われます!」
【カンナ】「囲まれないようにして!ゲルト、対空防衛を欠かさないように!」
【ゲルト】「言われなくても!…しっかし、思ったより冷静だな向こうさん。挑発に乗ってくると思ったんだがよ」
ゲルトが対空防衛システムを操作しながら、そう誰に向かうともなく話す。
【クーリア】「向こうもそこまで愚かではない、ということでしょう。正直、ベストなシナリオではありませんが…想定の範囲内です」
それに対してクーリアがこう答えた直後、クロスバードがグラリと大きく揺れる。
【オリト】「うわあぁっ!?」
思わずふらつくオリト。

【ジャレオ】「敵ミサイル、第4倉庫区画に命中!自動修復プログラムを起動します!」
【ジェイク】『悪い、撃ち漏らした!』
ジャレオが目の前の端末を操作しつつ報告する中、ジェイクから通信が飛び込む。
【カンナ】「あそこならかすり傷で済むわ!小さいのはいいから致命傷だけは避けて!
      …大丈夫、まだあたしらのツキは死んでない…!」
カンナは人型兵器乗り2人に指示を出した後、小声でそう確かめるように言った。

【レイラ】「敵艦との距離、600で変動なし!ですがオリヒメ3機が迫ってます!」
【カンナ】「オリヒメとの距離は?」
【レイラ】「今のところ420…いや、410!少しずつ迫られてます!」
【クーリア】「そろそろですね…」
【レイラ】「400、切ります!」
レイラがそう報告した瞬間、カンナが立ち上がり、こう叫んだ。
【カンナ】「今よ!ミレア、お願い!」

【ミレア】「いき、ます!!」
それに合わせて、ミレアがキーボードを叩くペースを上げる。クロスバードは加速しつつグルリと向きを変え、今度は逆にサグラノ家艦隊に突っ込む形になった。
そしてさらにカンナは人型兵器乗りの2人に指示を出す。
【カンナ】「ジェイク、アネッタ、オリヒメはお願い!」
【アネッタ】『この状況で無茶を!』
そもそもクロスバードが一気に向きを変えるのに合わせて、クロスバード防衛の位置取りを変えながら敵の猛攻を防ぐというただでさえ難易度の高い作業をやっている上にこの指示である。
カンナの無理矢理な要求に対して、アネッタはそう言い返すが、すぐにビームライフルを構えて、狙いを定め一発。
【レイラ】「オリヒメ、1機沈黙!」
【カンナ】「やるじゃない!」
【アネッタ】『偶然よ!』
カンナの賞賛に対して、アネッタが軽く謙遜して返す。

【カンナ】「そのまま加速して、最大船速で突っ込んで!ゲルト、次は頼むわ!」
【ゲルト】「任された!主砲、第2射準備開始!」
ゲルトが端末を操作し、主砲の発射準備に入る。
【レイラ】「オリヒメ残り2機、一気に近づいてます!距離180!」
クロスバードが方向転換したため、互いに向かっていく形となり一気に距離が縮まる。
【カンナ】「ジェイク!」
【ジェイク】『任せろっ!』
…とはいえ、かなりのスピードで動いているクロスバードから離れてしまうと置き去りにされてしまう。オリヒメ2機をクロスバードに引きつけつつ、クロスバードには被害が及ばないように倒す。簡単なことではない。
そもそも敵側としても、わざわざ人型兵器がいるところを狙うような間抜けなマネはしないのだ。オリヒメ2機はクロスバードに近づくと、アンタレスとアルタイルがいる逆側へと回り込もうとする。
【ゲルト】「…させるかよっ!!」
が、それを見ていたのはゲルト。主砲の発射準備を継続しつつ、対空砲やミサイルをオリヒメ相手に集中させる。
それを嫌ったオリヒメのうち1機がビームライフルを発射しようとするが、そのタイミングで副砲の照準が向けられた。さすがに難しいとみたオリヒメは向きを変える。

…その一瞬のスキを、見逃さなかった。
【ジェイク】「そこだぁっ!!」
ジェイクのアンタレスが一瞬だけクロスバードから離れ、ビームセイバーで一閃。オリヒメは真っ二つになり、爆炎に包まれた。
さすがに残りの1機となったオリヒメはまずいと見て、向きを変え撤退していく。
【レイラ】「オリヒメ残り1機、撤退します!」
【ゲルト】「よし、こっちも主砲準備OKだ!艦長、いつでもいける!」
だがカンナはすぐには発射を命じない。急旋回して速度を上げながらサグラノ家艦隊に突っ込もうとするクロスバード。それに合わせて陣形を変える様子を見極める。
【カンナ】「…もう少し、もう少し近づいて…今よ!!撃ぇーっ!!」
タイミングを見計らったカンナの命令に合わせて、ゲルトが主砲を発射。それまで数え切れないほどクロスバードを掠めていた光の線に対し、逆方向に向かう光の線が一筋だけ輝いた後、轟音が響き、煙に包まれ、クロスバードの視界はなくなった。


【ソウジ】「…どうなった!?状況を報告しろ!」
戦場を包む爆煙が薄れ、状況を確認しようとする。カグラヅキ自体はクロスバードの最初の一撃で航行不能に陥っていたためほとんど動いておらず、少し離れた場所にいた。
【オペレーターB】「詳細は現段階では不明ですが…、駆逐艦1隻が撃沈された模様!他、現段階では大破2、中破1、小破4!
          …ですが、ハナミヅキ級は全艦健在!大勢に影響ありません!!」
その報告を受け、ソウジはここが勝負所と判断。こう叫ぶ。
【ソウジ】「よし凌ぎ切った!動ける艦は全艦突撃!撃ち返せぇ!!」


【レイラ】「…ダメです、敵艦隊健在!反撃、来ます!!」
クロスバードの大型モニターに、敵の攻撃を示す光が次々と示される。艦隊所属のオリヒメも次々と出撃しているようで、光の点が増えていく。
【クーリア】「さすがに無茶でした…突破口を開ければ、と思ったのですが…申し訳ありません」
【カンナ】「…いや、よくやってくれたわ。ジャレオ、超光速航行は?」
【ジャレオ】「エネルギー充填にもう少し時間がかかります…すぐには無理です!」

そのジャレオからの報告を聞いたカンナは、少し力が抜けたようにこうつぶやいた。
【カンナ】「…どうやらあたしじゃ、女傑は超えられないみたいね…」


『…いいや、合格だよ。よくやってくれた』
クロスバードにそんな通信が飛び込んだのは、その直後だった。

【レイラ】「あたし達の反対側、サグラノ家艦隊の背後に多数の戦艦反応!…惑星同盟軍第3艦隊です!!」
【カンナ】「イレーヌ元帥閣下…!!」

それは、まさに絶好のタイミングだった。ちょうどサグラノ家艦隊がクロスバードを仕留めようと一斉に攻勢をかけた瞬間であり、あれだけ警戒していたはずの第3艦隊本隊の存在がすっぽり抜け落ちた一瞬だった。
【ソウジ】「しまっ…!!」
完全に虚を突かれ、ソウジも言葉を失う。

【オペレーターA】「総司令!このままでは…!」
そのオペレーターの声で我に返ったのか、ソウジはドン、と壁を思いっきり叩きつけた後、こう指示した。
【ソウジ】「…止むを得ん…全艦…超光速航行でL-56方面に撤退だ…っ!カグラヅキ含め、行動不能の艦は他の艦に曳航してもらえ…っ!!」


かくしてサグラノ家艦隊の動きが止まり、1隻、また1隻と姿を消し始める。
…だが、それを黙って見ているイレーヌ元帥ではなかった。
【イレーヌ】「逃げられる前に1隻でも多く落とせ!全艦、攻撃開始!!」
その命令と共に、無数の光の束がサグラノ家艦隊を襲う。次々と巨大な爆発が起こり、艦隊が塵と化していった。


その様子を、クロスバードのクルーはただ見ているしかなかった。
【オリト】「これが…第3艦隊…」
【レイラ】「…結局、いいように使われただけなのかしらね、あたしらは…」
【ゲルト】「ポジティブにいこうぜここは。クロスバードはそれだけ利用価値があるってことを海溝派にも認めさせた、ついでに生き残ったってことで!」
【カンナ】「そうね…生きて帰れたんだから良しとしましょう…!」


結局、カグラヅキはすんでのところで超光速航行で脱出したため敵の頭を倒すことはできなかったが、第3艦隊はサグラノ家艦隊の約半数を撃沈し、壊滅状態に追い込んだ。
数日後、第3艦隊はほぼ無傷でケレイオス本星を占領。
かくして、ケレイオスを巡る戦いは、同盟の勝利にて終結。サグラノ家艦隊壊滅という事実も相まって、その一報は銀河に衝撃を与えた。

「ソウジ率いるサグラノ家艦隊が同盟の第3艦隊によって壊滅…?面白くなってきましたわね…!」
そのニュースを聞いて、不敵に笑う少女。クロスバードが彼女と『再び』邂逅する日が、近づいていた。

このページについて
掲載日
2021年6月26日
ページ番号
26 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日