17歳のある日

駅のホームで誰かが私を見ているのだろうか?
…多分、誰もいないんだろうな。

一房の葡萄を持って、電車から降りてきた誰かに、
待ちくたびれた彼女は涙目でいきなり抱きついている。
「待ってた。」

誰かはチャオなるものを持って降りてきた。
都会のペットを自分の子供に渡している。喜んでいる二人。
「待ってた。」

夜の9時の電車。もうこれ以上電車はやってこない。
多分明日の朝になってもそれは来るだろう。
でも、彼は寝坊するタチだったから…。

私は「待ってた。」さえも言えずに、
17歳のある日、持っている想い出を初めて燃やす…。…。

今頃彼は何をしているんだろう?
頑張って仕事をしているんだろうか?
それとも、もっと遠くの、どこかで旅しているんだろうか?

17歳のある日、彼は私にキスをした。
その日はロマンチックでも何でもない、曇り空だった。
だから、余計に印象に残って、
こう寂しいときに、いつもいつも思い浮かんでくるのだ。

電車が消えたホームからは私が生まれた産婦人科と、
私のお母さんがいるお寺のお墓が見える。

愛する人がまた生まれてこの始発に乗っていく。
愛する人がまた消えてこの終点を超えてどこかへ旅立っていく。
そして、私の手からも離れてしまうの…。



光り輝く世界であるとき彼は私にこう呟いた。

「愛すれば愛するほど、この世界が広がるんだってね。」

キスすればするほど、頭は火照って、
暖かさを知ってしまって、
言葉が冷たく突き放したとき、あなたはどっかいっちゃって、
そして、寒さを知る…。

気付かれないようにしていたことはばれてしまって、
そして、その時に渡したプレゼントが一番の想い出…。
あなたが相手だったから?
初めての告白だったから?

no,that because I was with you...



遠くから見ていた、近くでも見られた。
そんな喜びも悪口なんて言う言葉に傷つけられそうになったけど、
案外、しっかりとしていた。

体育祭とか、文化祭とか、受験とか、
いろいろあったけど、何とかやってこれたよね。
…違う、あなたいなけりゃ、何とかやっていけなかった。

「あなたが行きたいなら…行けば良いんだよ。」

でも、私は突き放してしまったの。
あなたは悲しそうに笑いながら、
そっと最後に私の髪の毛を撫でて、このホームを出た。

「なぁ、来年のこの日、帰って来れたら、…。」

周りを気遣って、遠慮がちに手を振って、
私は、たっぷりの希望と、たっぷりのプレゼントをあげて、
それに応えていた。

そうして、ある日、メールが来て、こう書いてあった。

「ゴメン。」

次の日、メールが来ない。
次の次の日も、メールが来ない。
分かっていたけど次の日も待った。
私が泣いてることも知らないであなたはじらして、

一週間、…二週間後、…

一ヶ月後、私はもうあなたのことを忘れていた。
新しい彼氏が出来て、
私はあなたのことを忘れていた。
私はあなたのことを、忘れていた。

いつか必ず来ることは、いつか必ず去って、
そう言う物だと思っておけば、別段寂しくなかった。



ある日、私は街であなたを見かけた。
道沿いに続く電信柱の影と共に、
いつか見た、あなたの影がいることに気付いていた。

いつの間にか私はあなたの住んでいる近くに来ていた。
こんな近くに来たのに、
自然と私は顔さえ会わせたくなかった気持ちがした。
卑しいと思われるから?
…それとも、思い出したくないのか、恥ずかしいのか…。

気付くと、あなたの影は二つに増えていた。
私は信じたかった。
でも、太陽は二つもなかった。
私は大声で叫びたかった。
「好き。」

でも、その二つの影は私を置いていく。
ふと見渡すと、もう、どこにもそれはなかった。
そして、ほっとしてしまう自分が、
何故か後悔の種になって、私は今の彼を振ってしまった。



青空の下で夢を見ながらあなたと踊れたら、
やがて一つの幸せそうに揺れるタマゴを見つけるのだろう。
そして、撫でて、撫でて、それを育てていけば、
もう二度と、離されることはないと思っていた。

150cmの目線からは何も見えない。
あなたが頼りだったのに、もう何も見えない。
手を繋いで。
手を引いて。
私を森の中に連れて行って…。



夜空のホームにまた目を覚ます。

もしも、もしも、この線路がつながっているなら、
あなたはここに来れるんだから、
そんな長い距離じゃないんだから。

せめて、せめて、最後にこういって。
私を…好き…だって。

そして、この線路が永遠と続く道になるように、
二人で願ってしまうの…。
そうすれば、そうすれば、ずっと、ずっと…。

「今のは、良い奴だよ。」

またある日、メールがやってきた。
私は誰も見ていないくらい部屋で笑顔を取り繕って、
精一杯「良かったね。」と言った。

そのあとは、散々泣いた。
でも、水は蒸発してしまう物。
人間だって生き物だから、同じ事かも知れない。

もう二度と気付かれることもないこの悲しみと、
もう二度と戻ってくることのないあなたを待ちながら、



私の17歳は後3分で終わる。

この作品について
タイトル
17歳のある日
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第320号