魔法の知識

魔法では他者に幻覚、錯覚を引き起こすことが可能である。
すなわち、事実ではない情報を脳に与えているのだ。
腕が千切れて非常に痛い、というような情報を与えれば、被害者は実際にはそうでなくともその苦痛を味わう。
しかし、そのような使われ方しかしないというわけではない。
とても楽しい、という情報を与えると被害者はとても楽しいと感じる。
あるいはニュースの情報を与えれば、相手にそのニュースを伝えることができる。
つまり、魔法は正確には他者へ情報を送り込む技術なのだ。

では、どのようにして他者へ情報を送信するのか。
方法はいくつかあるが、端的に言えば相手の五感に接触することである。
相手の視界に自分が入っていれば情報の送信は可能だ。
触れている状態でもいい。
つまり自分が何らかの形で相手の神経を刺激している状態になればいい。
刺激している神経へ自分の送信したい情報も一緒に送信する。
それを神経が受け取って脳へ運ぶことで魔法は成立する。
送るために用意した情報がどのようなメカニズムで相手の神経まで届くのか、それは謎に包まれている。
そうであるからこそこの技術は魔法と呼称されるに値するのだ。

送信する情報はどのようなものがいいだろう。
戦闘時ではその相手に対して費やすことのできる時間によってどうするべきなのか変わってくる。
例えば1秒だけ腕の痛みを味わわせてもあまり意味はない。
せいぜいその1秒間苦しみ、その後痛みが消えたことに戸惑う程度だ。
1分や10分もその痛みが続くのであれば非常に有効なのだろうがこの場合不適となる。
1秒しか時間がないのであれば、精神的にダメージを与えられることが見込まれる映像を送りつける方がいい。
例えばグロテスクな光景だ。
それらを意識させれば相手は精神的ダメージを受け、非常に混乱することも想定できる。
しかし、それらで確実に相手を行動不能にできるわけではない。
それの実現を確実にするにはそれだけ時間を費やす必要があるのだ。
武装している状態ならば、情報を送信してショックを与えている間に射殺することが推奨されている。
魔法によって精神的に攻撃できる世界でも物理的な破壊は非常に有効な手段である。

また戦闘時には魔法が情報を送信する術であることに着目し、相手を洗脳することも視野に入れられる。
情報を的確に送り込めば、相手を洗脳することが可能である。
洗脳と一言に言えども様々な洗脳がある。
わかりやすい例を挙げれば、敵であった者を味方にしてしまう、というようなところだろうか。

しかし、実際に敵を味方にすることは非常に難しいとされ、推奨されていない。
なぜなら、洗脳するために送る魔法は基本的に作られた記憶という情報だからだ。
この場合送る記憶情報は、味方として行動した過去などである。
洗脳するために魔法で送った記憶は当然偽物だ。
本来の記憶と決定的な矛盾を生じることも少なくない。
そのため時間が経てば経つほどその記憶が偽の記憶であると気付かれるリスクが生じる。
それを阻止するには常時情報を与え続け、矛盾に気付かないように意識を逸らさせることなどが必要である。
最善策としては全く新しい人生を1から構築し、その情報を送り続けることで思い通りに操る、といったところだろうか。
しかし、そうまでして洗脳するメリットが生じる機会ははたしてあるのだろうか?
あるいはそれが現実的に可能かどうか、という疑問が生じる。
送信する情報量に限界があるからである。

送り込むことのできる情報量を多くする方法は2種類存在する。
1つは長時間に渡り送信することである。
単純に考えれば、1分かけた場合には1秒しかかけなかった場合より60倍の情報を送れることになる。
送信している時間が長ければそれだけ多くの情報を伝えることが可能だ。
もう1つはより多くの部分で相手の神経を刺激することである。
そうすることで結果的に情報を伝えるトンネルを大きくすることになり、同時に大量の情報の送信が可能となる。
具体的にどうするとよいのか。
相手の視界を占領することが第一に挙げられる。
つまり相手に近づくことである。
当然相手の視界全てを埋め尽くすほど接近すると最大の効果が得られる。
また、そうなるまで接近した場合は体の接触もするとよい。
触れ合う面積の広さを考慮すると、抱く形となることも多いだろう。

魔法は接近すればするほど効果を大きくすることができるのだ。

このページについて
掲載日
2010年7月16日
ページ番号
7 / 16
この作品について
タイトル
絶望
作者
スマッシュ
初回掲載
2010年7月16日