特別読みきり第2弾 ~『夢』~
特別読みきり「夢」
夢を見ないチャオがいた。
夜、寝転んで意識が消えたら、すぐに朝。
その代わりなのか、彼は俗に言う「天才」だった。
全ての能力において、他のチャオより強かった。
だからなのか、「こうなりたい」という夢を持つこともなかった。
そんなある日の事。
チャオガーデンに、魔物が襲ってきた。
彼は単身、魔物との戦いへ赴いた。
山を越え、海を渡り、幾多にも及ぶ戦いを経て、ついに魔物が住みついている古ぼけた城の最上階に辿り着いた。
最後に待っていたのは・・・意外にも白装束の女だった。
彼は言った。
「君が、魔物にチャオガーデンを襲わせたのかい?」
「ええ」
「目的は?」
「暇だったからよ」
「でも、ガーデンを襲うのを見ているだけってのも暇じゃない?」
「何もないよりは、よっぽど楽しいわ。
・・・ねえ、そういうあなたはどうなの?」
「僕?・・・そうだねぇ、仲間がいるから毎日楽しいよ。」
「『仲間』・・・?久し振りに聞く言葉ね。
私は孤独になってから、もうかなりの時間が経つから。
いつ孤独になったのかなんて、とっくに忘れたけどね。」
「ふ~ん・・・それじゃあ君が僕らを襲ったのは、寂し紛れかい?」
「かも知れないわね。
・・・ねえ、さっき『仲間』って言ったよね?」
「うん」
「もしそれが、『偽りの仲間』だったらどうする?」
「・・・?」
「それじゃあ、今から『真実』を見せてあげる・・・」
彼女は魔法を使い、城の壁にガーデンを映し出した。
そこでは、彼の仲間が、こう話していた。
「アイツ、自慢ばっかだよな~」
「ああ、ちょっと頭がいいのをいいことにな。」
「しかもスポーツ万能。ムカつくよな。」
「なにが『夢を見ない』だ。やっぱり頭おかしいよな。」
「なあ、今のうちにアイツの好きなおもちゃ、隠しておこうぜ。」
「オッケー、どこに隠す?」
ここまで会話が続いたところで、映っていたガーデンは消え、壁になった。
「どう?分かった?これが真実。」
「・・・・・。」
「あら、どうしちゃったのかな?すっかり黙っちゃって。
でも、あの2匹も同じなのよ。
ああやってつるんでいるけれど、実はお互い、「今度は貴様の番だ」って思ってる。
そう、仲間なんて偽り。
みんなみんな、孤独の中を生きている・・・」
「・・・ねえ。」
「?」
「なんで君は、そういう事が分かるんだい?なんで、魔法を使えるんだい?」
「・・・あなたと同じですよ。
私もこのガーデンじゃないけど、とあるガーデンで生まれた。
でも幼い頃からなぜだか、魔法が使えたの。
だからいろいろあって、嫌になって、結局ここに逃げ込んだ。」
「同じ、か・・・。」
「・・・そして、私はそのガーデンに対して復讐した。
あなたのガーデンと同じ方法でね。
あっちのガーデンはなす術もなく全滅したわ。」
「そういえば、そんな噂を・・・」
「でも、復讐って無意味ね。復讐したところで、空しさしか残らない。
しかも、怒りや憎しみの心は消えない・・・」
「それを断ち切ってこそじゃないのか?」
「いいえ、私はあなたみたいに心まで強くはありませんから。そんなこと、できません。
やがて、その怒りは全てのチャオに対して向かうようになった。
あなたのガーデンを襲った、本当の理由。
そう、『無意味な復讐』よ・・・」
「やめ・・・」
彼はそこまで出て、声に詰まった。
本当は、「やめろ!あそこには仲間が・・・」と言おうとしたが、仲間である事はさっき否定されている。
「そう、あなたが私を止める理由なんて、最早ない・・・
そしてそのためにはまず、あなたを消すべきでしょう。」
「・・・!!」
「いくらあなたが向かってきたところで、無駄です。私には魔法がありますから・・・」
「ちょっと待て!!
・・・もし、全てのチャオを滅ぼしたら、君はどうするんだ?」
「その時は、その時ですよ。
もっとも、私の命はもう長くない・・・だからこそ!!」
彼女は杖を振り上げた。
その瞬間、彼は初めて「夢」を見た。
“生きたい”
とてもささやかな夢ではあるが。
すると、彼女が放った魔法の電撃は、あさっての方向へと反れ、消えていった。
彼は、叫んだ。
「さあ、来い!夢を見た僕は完璧なチャオだ!魔法なんかなくても!!」
彼女がやり返す。
「果たして、その夢の力はいつまでもつのかしらね?」
そして、究極の戦いが始まった。
この結果を知る者はいない・・・
完