―たんぽぽ―
――暗い顔して、どうしたんだい?
下を向いてとぼとぼと歩いていた一匹のチャオは、とても驚きました。突然声をかけられたからです。
きょろきょろと周りを見回してみましたが、誰もいません。
――こっちだよ、こっち。
チャオが下を見ると、そこにはポツンと花が咲いていました。白くてふわふわした、小さな花でした。
――僕だよ。
声の主は、その小さな花でした。
チャオは、その小さな花を不思議そうに覗き込みます。
――暗い顔して、どうしたんだい?
小さな花は、もう一度チャオに聞きました。
チャオは小さな花の前にぺたんと座り込んで、話し始めました。
「今日、幼稚園でお空を飛ぶ練習があったチャオ」
――ふむふむ。
「クラスのみんなは上手に飛べたチャオ。でも僕だけ、うまく飛べなかったチャオ」
チャオは、ポヨをぐるぐるさせました。そして『はぁー』と、大きなため息をつきました。
――それで落ち込んでいたのかい?
小さな花は聞きました。チャオはこくん、と頷きました。
小さな花は、それを聞いてけらけらと笑い出します。チャオはびっくりしました。ぐるぐるだったポヨも、びっくりしています。
――なあんだ、そんなことで落ち込んでいたのか。あははっ。
小さな花は笑い続けました。笑われ続けたチャオは、とうとう怒り出してしまいます。
「そんなこととは何だチャオ!僕にとってはしんこくな問題チャオ!」
それでも小さな花は笑うことをやめません。
そして言いました。
――空を飛ぶなんて簡単さ。僕だって飛べるよ。
「チャオ!?」
チャオはまたびっくりします。ポヨも、びっくりマークになったり、はてなマークになったりします。
でも、すぐに言い返します。
「うそチャオ!花が飛べるわけないチャオ!」
――うそじゃないよ。でも、僕一人じゃ空を飛べないんだ。だから、君に手伝ってほしいんだ。
「チャオ?」
――僕に向かって、思い切り息を吹きかけてごらん。思いっきりだよ。
「いいチャオか?」
――もちろん。
小さな花は、はっきりいいました。
チャオは言われたとおり、小さな花に向かって息を吹きかけることにしました。まず大きく息を吸って、そして……。
「ふぅーっ!」
チャオは小さな花に向かって、思いっきり息を吹きかけました。すると……。
「チャオ!?」
小さくて、白くて、ふわふわしたものが、空いっぱいに飛んでいきました。
チャオはびっくりして、すっくと立ち上がりました。そして空を見上げます。
「すごいチャオ!ホントに飛んでるチャオ!」
――どうだい?空を飛ぶなんて簡単だろ?
『小さな花達』が、空から話しかけてきました。
――僕には羽がないけれど、僕は空を飛べる。でも君には、立派な羽があるんだ。君だって飛べるに決まってるじゃないか。
「チャオも…飛べるチャオか?」
――もちろん!
小さな花は、『笑顔』で言いました。
…
――それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。
「チャオ?」
――このまま風に乗って、僕はどこかへ飛んで行くよ。だから、お別れだ。
「…もう会えないチャオか?」
――わからない。わからないけれど、君もどこかへ飛んで行けば、どこかで会えるかもしれないよ。
「飛んで行くチャオ?」
――飛んで行くのさ。
ひゅうっ、と風が吹きました。
吹いた風はチャオの頬を撫で、空に浮かんだ小さな花達を勢いよく舞い上げました。
風に乗って飛んでいった小さな花達を、チャオはいつまでも見つめていました。
…
幼稚園から帰ってきたチャオは、今日はみんなと一緒にお空をうまく飛べた事と、昨日の出来事を話しました。そして聞きました。
「あの花は、なんていう花だったか、わかるチャオ?」
話を聞いたご主人様は、言いました。
「あぁ、その花は――」