~大切に~ ―Promise―
ステーションスクエアの駅前で、少女は待っている。その手には一匹のチャオを抱いて。
ステーションスクエアの駅前で、少女は待っている。その手には一匹のチャオを抱いて。――少女は、父親の帰りを、ずっと待っている。
今日も、少女は父親の帰りを待っている。でも、その手にチャオは抱いていない。
一年前。
大好きだったお父さんに、単身赴任でしばらく家に帰れないと言われた。
私は、とても悲しかった。
泣きじゃくる私に、お父さんは一匹のチャオを手渡した。
――その子を、大切に育てるんだ。そうすれば、お父さんはきっと帰ってくるから。
お父さんはそういって、私とチャオの頭を撫でた。
お父さんがいなくなってから、私はチャオを一生懸命育てた。
いっしょに遊んで、いっしょにご飯を食べて、いっしょに寝て。
そして――毎日、いっしょにお父さんの帰りを待った。
お母さんに、まだ帰ってこないわよ、と言われても。毎日、お父さんの帰りを待った。その手に、大切なチャオを抱いて。
そして、今日の朝。
お父さんから、電話がかかってきた。今日、帰ってくるって。
私はとっても喜んで、チャオに知らせてあげようと、まだ寝てるチャオを起こしに行った。
でも、寝てると思ったチャオは、なんだか様子が変だった。
ポヨをぐるぐるにして、座り込んでうつむいていた。
私は、元気が無いな、病気かな、と思ってチャオに近づいた。
するといきなり、向こうが透けて見えるぐらいに薄い繭が、チャオを包み込んだ。
私はびっくりして、お母さんを呼んだ。
お母さんは、寿命が来たのね、と言った。
私が、じゅみょうって何、と聞くと、お母さんはその意味を教えてくれた。
私は悲しかった。
せっかく、ココまで一緒に過ごしてきたのに。
せっかく、一緒にお父さんをお迎えできると思ったのに。
せっかく、家族が全員そろうと思ったのに。
私は泣いた。
ずっと泣いていた。
チャオは、完全に繭に包まれて、姿が見えなくなっていた。
――夕方。
私は、いつものように駅前で、お父さんの帰りを待っている。でも、今日は一人で。
そして、お父さんを待ち始めてから、数分後。
お父さんが、帰ってきた。
チャオのコトを思い出すと涙が出てきた。でも、お父さんに泣き顔は見せられない。
私は涙をぬぐって、お父さんに駆け寄った。
おかえりなさい、お父さん。
家に帰る途中、いろんな話をした。もちろん、チャオのコトも。
お父さんは、微笑みながら私の頭を撫でた。
家では、お母さんがご飯を作って待っていた。
お父さんは、ただいま、と言って、私に尋ねた。
――チャオは、今どこにいるんだい?
私は、お父さんを私の部屋に連れて行った。
私の部屋にはチャオはいなかった。かわりに、ひとつの繭――ピンク色の大きな繭が、朝とまったく同じ位置に置いてあった。
その姿を見て、私はまた涙が出そうになった。
でもお父さんは、なぜか笑顔だった。
――ありがとう、ちゃんと約束を守ってくれたんだね。
そう言って私の頭を撫でた。
私が、きょとん、としていると、お父さんはピンク色の繭を指差して言った。見ていてごらん、と。
ゆっくり、繭が薄くなっていって、中の様子がわかるようになってきた。
中には、ひとつの卵があった。
ゆっくりと時間をかけて、繭が消えた。
私は卵に駆け寄り、じっと卵を見つめた。
しばらくして、チャオが、生まれた。
私は、朝とは違う涙を流して、生まれたばかりのチャオをぎゅっと抱き寄せた。