─steel chao─
─steel chao─
今日、いつもどおり彼は目を覚ましました。
青い空の下、友達のいるチャオガーデンで。
なんだか、とても長い間眠っていたような気もします。
でもやっぱり、いつも通りのチャオガーデンです。
池も、草原も、外に広がる海も空も。
彼は、後ろからの楽しそうな音に気がついて、その方向へ振り返りました。
三匹のチャオたちがかたまって、テレビを見ている音。その中に、大の仲良しのチャオの姿もあります。
彼も、テレビの音に誘われて、彼らのほうへ駆け寄っていきました。
でも、彼らは彼のほうを振り向くと、ぎこちない動きでその場を去ってしまいました。ひとり残らず。
彼は、見ていた番組が終わったのだと思いましたが、アニメはまだまだ途中でした。
彼は、後ろからのきゃあきゃあという楽しそうな声に気がついて、池のほうを振り返りました。
みんなが、岩場から池へと羽を羽ばたかせ、ぱたぱたと飛んで遊んでいました。
彼も、岩場へ駆け寄って、一番高い岩のうえへとよじ登ります。
でも、彼が上ってきたとたん、みんなほかのところへ飛んでいってしまいました。
彼は不思議に思って、ポヨを?にします。
そしてそのままそこから池へと飛び込みました。
水面が放射状に波打たれ、そのチャオの周りに円が広がります。
彼は水面を見つめて、だんだんはっきりしてくる彼を映した姿を、見つめました。
波が落ち着いてくるにつれて、彼は自分の姿を、もっともっとじっと凝視します。
そして自分の姿がはっきり見えるようになったとき、
彼ははっとして自分の右側の頬に触れました─
それは、左側とは違う、硬い、硬い、鉄でした。
いつか彼が見た、
街で大きな音を立てて建物を壊していた怪獣のようなものと、
道を煙を吐きながらものすごい速さで駆け回るものと、
大きな男の人が引き金を引いて担いでいた細長いものと、
それから放たれたものを弾き飛ばした大きな硬い板と、
それらと同じ、生き物の体は持っていないはずの、硬い鉄でした。
彼は、ガーデンの出口に向かって、精一杯駆け出しました。
もう、周りの景色が何も見えませんでした。
ガーデンを出て、それでもまだ精一杯走って、
彼は何かにぶつかって、後ろにこけてしまいます。
ぶつかったのは、彼のご主人様でした。
彼は、ご主人様の足にしがみついて、そのまま硬い右手と柔らかい左手を、交互にぶつけます。
どうして僕はこんな体なの?
どうして僕から体を奪うの?
どうして僕から─友達を奪うの─!
チャオの声は、人間であるご主人様には届きませんでした。
でも、ご主人様は、彼をすっと抱き上げて、その場に座り込みました。
─そうね─彼方は、鉄の体を得ることを望んでいない─
私が一方的に決めたことだったわ─
彼は、さらにぎゅっと抱きしめられるのを、左側の体で感じ取ります。
─いくら生きるためだとはいえ、それでも私が彼方とまだ一緒に居たかったから、
勝手に─勝手に、私が・・・─
彼には、人間の言葉は届きませんでした。
でも─やっぱり彼もご主人様と同じように、生き物でした。
生き物だからこそ、彼にはご主人様の気持ちが分かります。
そして生き物だからこそ、ご主人様には彼の気持ちが分かったのです─
─私は彼方という友達を失わずにすんだけれど、
彼方は、たくさんの友達を失ったのね─
ごめんなさい
でも 彼方はれっきとしたチャオ─モノなんかじゃないの
「あのチャオ・・・・だよな?」
「なんかさー、聞いた話じゃ、事故で半身なくしたって?」
「うっわー、本当に鉄じゃん。どうなってんだろ」
彼とその友達のチャオ達を連れて、彼らのご主人様は公園のそばを通ります。
そうしていると、時折、こっちをみて話す人々も現れたり─
でも、もう大丈夫。
「でもさ・・・やっぱ、ちゃんとしたチャオだよな─ちゃんと生きてる」
彼が生きることを彼自身が認めている限り、彼は、チャオです。