二十話 指令役
「あいつ絶対クロだろ」
とロースト。みんなが笑う。私も笑う。
帰りのバスケットの中で私たちはどうやってトロンをしばき倒すかについて話し合った。
薄いガラス玉を口の中に放り込んでアッチョンブリケするとか、高温で溶かしたガラスをぶっかけてガラス人形にするだとか、このバスケットの代わりにトロンを括りつけてバードが引きずり回すだとか、なかなかに盛り上がった。
「あとはどう証拠を掴むかだけだな」
「寧ろ、先にしばいて吐かせる?」と私。
「なるほど、名案だな」
そんなテンションのまま拠点に戻ったら、何人かいなかった。ライザに聞いたら、カオスエレメントの反応があったから出動した、とのことだった。なんだか忙しいなあと思いながら、防具を脱いだり無線機を掛けたりしてから、ソファに体を沈める。
証拠掴むの、イメージ湧かないなあ、と思ったら急に冷めてしまって、あとはローストに任せようと思った。
次の日の朝、ローストがバードを連れて外へ出ていったようだった。フェニーも休みだったので、空間が広く感じた。
私が出社した時には無線機は掛かっていなくて、まだ来てないのかなと思ったけど、ライザに聞いたら三人のことを教えてくれた。
「またなんかやろうとしてるな」
とライザは笑った。
そんなライザとは対照的に、リングは怖い顔してソファに座っていた。
「昨日は収穫ありとか言ってたけど、何が収穫だったんだ? あいつリーダーの癖に報告もしないで何やってるんだ」
「クロっぽいヤツがいたんだよね。確証はないんだけど」
「そうなのか。今日もそこに行ってるんじゃないか? メンメを連れて行かなかった意味はわからないけど」
「私を危険な目に合わせたくないんだよ」
「過去を直視しなさい」
「危険だったかも」
「大丈夫かなあ。ローストは変なところでスイッチ入るんだよなあ」
ローストが何も言わずに外へ出て行くときは、その何かをするのに面倒な反対意見が挙がるときだ。そして、その反対意見を言うのは大体リングとテーラだ。まあ確かに、二人を説得しても黙るような印象はないし、納得しないとわかってる二人を無理やり黙らせて行動するくらいだったら、最初から説得しない方が良いと考えているのかもしれない。私だったら絶対そうする。
ローストが何をしようとしてるのかはわからない。昨日はふざけてトロンのことを話していたけど、トロンは見た限りではカオスドライブを使ってないし、正直やっぱりカオスエレメントに大きな影響を与えられるようなヤツには見えない。というか、エレメントがおかしいのは個人の影響ではないだろう。
探知ガラスが反応した。赤と緑の反応だった。ローストがいないから、自然と他の指令役が動く。
「赤と緑か。距離の割り出しができないから、向かいながら確認な。俺は残るから、レードラ行ってくれ」とリング。
「わかった。ロックとライザとメンメ。行こう」と指令役のレードラ。
すぐに準備をして、ライザのバスケットに乗り込んだ。
探知ガラスの光の強さからして、そこそこの距離を飛ばなければいけない。移動時間が退屈だ。
「急に反応が増えた気がするよな」とロック。
「どうだろう。このペースで反応があったこともあるから、たまたまかもしれない」とレードラ。
普段あんまり仕事がないから、急に仕事が何件かできると忙しく感じる。その度に、この二人はこんな会話をしている。
ロックはバスターの戦闘員の中では丁度真ん中の強さだ。チェイスよりは強いけど、テーラよりは弱い。銀色のニュートラルノーマルタイプで、何かが得意という訳ではないけど、何かが苦手という訳でもない。
レードラも指令役ではあるが、ほぼ戦闘員のようなポジションだ。戦闘員としての実力は高くて、テーラよりも強い。水色のダークオヨギタイプ二次ヒコウだ。熱を奪う特殊な物質を放つ銃、レイガンを扱っている。レイガンの弾はあまり飛ばないし、弾道も放物線を描く。水鉄砲に近い。かなり癖がある銃だけど、レードラは射程管理と回避が上手いので、使いこなせている。ただ如何せん指令役としてあまりやる気がない。指令役はほとんどローストに任せているし、ローストがいないときはリングが張り切るから、指令役としてはあまり認識されていない。バスターは指令役、戦闘員、ヒコウ員のグループで基本的に出動するので、指令役のローストとリングがよく働くとなると、レードラは自然にあまり働かなくなる。
そんな背景があるからかもしれないけど、ロックとレードラの会話はどこかふわりとしている。
「ローストも忙しいよな」とレードラ。
「別に少しくらい振ってもらってもいいんだけどな」とロック。
でも普段からそんなに仕事が多くないので、ロックがローストに対してわざわざ振ってくれと言ったことはない。
「リングが不満そうだから、リングに振るのがいいんだろうけど」とロック。
「でもまあ、ローストは割とこんな皆が気に入ってるみたいだから」とレードラ。
多分、レードラの言ってることが合ってる。
そんな会話をしているうちに、反応が近づいてきた。
そして、空き地で私たちを待っていたかのように見上げる三匹のチャオを見つけた。