そして僕は夜明けを待つ。

僕が生まれて初めて目にしたのは、青いツンツンした髪をしたハリネズミだった。

でも、それは僕の親だった。

彼は、名前を『ソニック』と言った。
彼は僕のことを、『ネイミー』と呼んだ。

僕はこの名前を気に入っていたし、
彼も僕の名前を気に入っていた。

僕は彼のことが好きだったし、
彼は僕のことが好きだった。

彼が連れてくる動物たちは一杯いたけれど、僕はその中から鳥達だけを貰っていた。

そして、時々、緑と黒の妙な形の木の実もくれた。
後から知ったけれど、それは『ダークの実』って言うんだね。

僕の頭は、気がついたら二つに分かれて角みたいになっていた。
身体は、黒くなっていて、ツキノワグマみたいに、三日月っぽい印が出ていた。

彼は僕のことを一段と可愛がってくれるようになった。
僕はその理由を知らなかった。
でも、彼が僕のことを好きでいてくれるなら、それでも良いと思ったんだ。

僕には、彼しか友達がいなかったから。



ある時、新しい友達が出来た。

彼女はソニックみたいにツンツンした髪を持ってなかったし、ハリネズミでも無かった。

僕と同じ、チャオだった。

嬉しくって、僕はいつだったか幼稚園で習った『ゴーゴーダンス』を踊っていた。
彼女は、笑いながらそれを見ていた。
彼も、笑いながらそれを見ていた。
ちょっぴり、恥ずかしかった。

でも、それっきり、彼は僕のことをかまってくれなくなった。

彼が来ても、動物を貰えるのは彼女だけだった。

彼は彼女を『チャラ』と呼んで、可愛がった。
彼女は、その名前をとても気に入っていた。

とても不愉快だった。
彼女ばかり可愛がられているのが、不愉快で仕方なかった。

僕は彼に、勇気を出して聞いてみた。
『どうして、僕はソニックに可愛がって貰えないの?』

彼は言った。
『ネイミーはもう、十分強くなったから』

その時、僕は気付いた。
もう、僕は子供じゃ無くなってたってことに。

泉に映る僕の顔。
青い、もう丸くない二つの目。
もう変わらない、紫色の身体。
もう変わらない、トゲトゲのポヨ。

彼は僕を苛めたりはしなかった。
でも、可愛がってくれることも無かった。

それでも、僕は耐えた。
彼がもう一度、僕を可愛がってくれることを信じて。



でも、それは夢に過ぎなかった。

ある時、久しぶりに、彼の腕に抱かれた。
嬉しくって、はしゃいだ。
彼は何故か、寂しそうだった。

彼の腕に抱かれながら、数の増えた友達を見渡した。

そして、僕はガーデンの外に出た。

僕が初めて見る、階段。
彼は、それを下っていった。
僕を抱いたまま。

洞窟を抜けると、そこは夜みたいに暗かった。

『ソニック、ここは何処チャオ?』
僕は聞いた。

『ここは・・・・・・、ダークガーデン』
彼は答えた。

怖い場所だった。
でも、何故か落ち着いた。

泉の水は、赤くて澄んでいなかった。
土は、乾いていて草も生えていなかった。
木は、枯れそうになっている。
それなのに、真っ赤な実をつけている。

怖いのに、
怖いのに、
どうしてなんだろう。

『ソニック、何処行くチャオ?』

『バイバイ、ネイミー』

『ソニック? 待つチャオ!』

僕は叫んだ。
でも、彼は振り返らなかった。

沈んだ『ダークガーデン』に一人。

僕は寂しくて泣いた。
一人、友達もいなくて、泣いた。

僕はもう、一人だった。



あれから、もう何日経ったのか分からない。
何週間経ったのか、或いは何ヶ月も、何年も経っているのかも知れない。

でも、僕は成長しない。
彼がガーデンに来ない限り、僕は変わらないんだ。

僕がどうしてこんなところに連れて来られたのか。
もう、寂しくも何ともなかった。
彼が来るのを、ただ焦がれたように、待つ僕。

滑稽だと、彼女なら笑うだろうか?
彼に愛された彼女は、僕を笑うだろうか?
あの日の笑いとは違う、嘲笑を込めた笑みで。



僕は眠った。
とてもとても、疲れていた。

夢の中で、僕は彼に愛されていた。
幸せな夢の中で、僕はふと思う。

このガーデンに日が昇るころには、彼は来てくれるのだろうかと。

きっとそうだ。
だから、僕は待つ。
ただ眠って、静かに。



そして、僕は夜明けを待つ。



END

この作品について
タイトル
そして僕は夜明けを待つ。
作者
桜(フィルァ,チャチャ,飛諏珂)
初回掲載
週刊チャオ第210号