シュピールくんのいちにち
ヒトの言葉をはなせないチャオたちは、ふだんどんなことをして、どんなことをかんがえているのかな?とおもって、このおはなしをかきました。
お題をだーくさんからいただきました。お題は「覚醒」です。だーくさんありがとう。
-----------シュピールくんのいちにち-----------
朝、目が覚めると、俺は覚醒していた。目が覚めたら覚醒するのはあたりまえか。ごめん。そうじゃなくて俺はもっとスピリチュアルな意味で覚醒したんだ。そんな感じがなんかひしひしする。ひっしひしだ。
せっかく覚醒したので、アイツを倒そうと思う。アイツ。俺を飼ってるご主人サン。アイツは人間男子なので強い。けど関係ない。覚醒した俺の前ではアイツなんて9時間天日干しした河童も同然だ。この言い回しは近所のチャオの間で流行っているのでよく覚えておいてほしい。もう一度言おう。アイツなんて9時間天日干しした河童も同然なのだ。なぜなら俺は覚醒したから。やったね!高揚感がヤバい。よし行こう、アイツの寝室へ。寝込みを襲おう。アイツがこの覚醒した俺より早起きしている訳が無い。俺は寝室のドアを開けた。アイツがいる。アイツは起床していた!早いッ!しかもアイツは鏡に向かってアイプチをしていた。あとオレンジのチークでヒゲを剃ったあとを隠していたし、つけまつげもバサバサだった。なんと、覚醒したのは俺だけじゃなかったのだ。悔しい。アイツはさわやかに俺に挨拶をするとワンピースを着て出かけていった。なんて野郎だ。アイプチもワンピースもチャオの俺には出来ない芸当だ。くそう。どうやったらアイツに勝てるんだ?そうだヤツに相談しよう。
「ドミニオンくーん!」
俺はアパートの呼び鈴を押した。ドミニオンくんは近所のチャオのなかでいちばんの秀才だ。ドミニオンくんはいつも自宅で天ぷらを揚げている。なんで天ぷらを揚げているだけで秀才の称号を与えられたのかは知らないが、とにかく俺はそんなドミニオンくんにとって唯一無二の友人らしい。
呼び鈴を押して数分待ったが、返事がない。そんなことは想定内だ。俺は勝手にドアを開けた。ドミニオンくんはやはり天ぷらと語り合っていた。菜箸を構え、プチプチ爆ぜる油に向かって真っ暗な目で語りかけている。こんなだからドミニオンくんには俺しか友達がいない。
「ドミニオンくん、きいてほしいちゃお。おれ、覚醒したちゃお。」
ドミニオンくんはまったく俺に気がつかない。油の爆ぜる音で台所中がうるさい。俺は大声で言い直した。
「おれ、覚醒、したちゃお!アイツをたおしたいちゃお!!」
ドミニオンくんは相変わらずブツブツなにか唱え続けている。いったい何時間油を見つめ続けていたのやら、とうとう油が発火した。それでもなお燃え盛る火に向かってブツブツなにか唱え続ける姿は魔術師だ。訂正しよう。俺はドミニオンくんの唯一無二の友人なんかじゃなかった。ドミニオンくんの世界に俺はいない。自己と哲学と天ぷらしかいない。
俺は超立腹した。ドミニオンくんの乗っている踏み台にドロップキックをかましてやった。ドミニオンくんはとっさに鉄鍋をつかんだ。あっつう。鍋がひっくり返った。そこらじゅうに火のついた油が飛び散る。うああ。でも水と油は混じり合わない。俺たちはチャオなのでなんとなく助かった。台所は火の海だけど関係ない。俺んちじゃないし。ドミニオンくんは炎の中からゆっくりと立ち上がる。
「河童・・・」
「え?」
「けさ、わかったちゃお。河童・・・9時間天日干しした河童を揚げることで、この術は完成するちゃお・・・」
なんてことだ。ドミニオンくんは天ぷらの神の啓示を得ていたのだった。これは一種の覚醒ではなかろうか?正直なところ術が完成して何が起こるかは知りたくもないがともかくヤツは覚醒仲間だったのだ。つくろう。覚醒クランをつくろう。
俺は一方的に覚醒クランの設立を言い渡して燃え盛るアパートを後にした。公衆電話があったので119番通報をしておいた。チャオと消防隊員との意思疎通には2時間を要したがちゃんと通報できた。なんてできるチャオなんだ、俺は。これが覚醒の力なのか。しかし覚醒した俺が超立腹するとアパートが全焼してしまうなんて。これから超立腹は封印しよう。
ドミニオンくんはクソ役立たずだった。でもヤツも覚醒していた。ひょっとするとこれは近所のチャオがみんな覚醒しているパターンかもしれない。俺は近所のチャオのなかでいちばん秀才なドミニオンくんよりも秀才だとされるキャメルくんのもとを訪れた。
キャメルくんは高利貸しだ。近所のチャオはみんなキャメルくんに借金がある。チャオはだいたい人間の通貨をご主人サンの財布から盗んできて河童ダービーに賭けている。河童ダービーで一発当ててお金を増やすのだ。増やしたお金をどうするもんなのかはわからないけれどみんな増やすことに夢中になっている。でもそういうのは胴元がいちばん儲かる仕組みなのだ。近所のチャオはみんな負け気味なのでキャメルくんにお金を借りている。そしてキャメルくんは胴元とグルだっていう噂だ。怖いなあ。
俺もキャメルくんに借金があるので正直会いたくなかったが、アイツを倒す知恵を借りる為だ、しかたない。
「そういうわけだから、知恵をかしてほしいちゃお」
「貸すのはやぶさかじゃないちゃお。でも利率はトイチちゃおよ。はらえるちゃおか?」
なんと、知恵にも利子がつくらしい。怖いなあ。10日後に1.1倍の知恵を返せばいいということなのだろうか。よくわからない。でも俺はなんかすごい万能感に満ちあふれていた。
「おれは覚醒したちゃお。そのくらいなんてことないちゃお。」
「すごいちゃお。じゃあ知恵をかしてやるちゃお。」
キャメルくんはそういって穴のあいた金色のお金をとりだした。穴のあいた金色のお金が近所のチャオのあいだではもっとも価値があるとされた。紙のお金700枚ぶんだ。
「これが、ニンゲンの弱点ちゃお。」
なんだって。
「ニンゲンは、オカネをみると、骨抜きになるちゃお。9時間天日干しした河童に水の入ったコップをみせた時のカンジをご想像いただくとちょうどいいちゃお。」
「す、すごいちゃお。でもニンゲンはもともといっぱいオカネをもってるちゃお。そんなニンゲンを骨抜きにするほどのオカネ、いくら覚醒したおれでももってないちゃお。」
「それを貸してやるのが、おれのしごとちゃお。じゃあこの穴のあいた金色のオカネを貸してやるちゃお。利率はトゴにまけておいてやるちゃお。」
トゴってなんだろう、きいたことないな。でもまけてくれるなんてやさしいな。覚醒した俺にかかれば紙のお金700枚とトゴ?の利子なんて朝飯前だ。
「そういえば、キャメルくんは、けさなにか覚醒したちゃおか?」
「もちろんちゃお。高利貸しの神がトゴについて教えてくれたちゃお。いずれカラスきんやTOTOにも挑戦するちゃおよ。」
天ぷらの神のみならず高利貸しの神まで存在していたなんて。覚醒ってすごい。俺は、覚醒ってすごいな~と思いながら、更なる知恵を求めて旅立った。返す用の知恵も獲得しにいこう。
俺は近所のチャオのなかでいちばん秀才なドミニオンくんより秀才だとされるキャメルくんよりもうひとまわり秀才なワーウルフくんのもとをたずねることにした。道中でドミニオンくんのアパートの側を通ったが、消防車がめんどうくさがったかわりに巡回検診車がいっぱいあつまっていて火事を観に来たヤジうまたちがめっちゃ健康診断されていた。消防車がいないのでめっちゃ延焼している。なんでかなあ。
ワーウルフくんのご主人サンはホームレスだ。でも実は河童だ。人間は河童をみてもホームレスかなにかだと錯覚してしまうらしいがワーウルフくんのご主人サンはまごうことなき河童なのだ。でもまだ9時間天日干しされたことはないらしい。河童とワーウルフくんはゴリラの学名しりとりをしながら公園で日光浴していた。
「おれ、覚醒したちゃお」
ワーウルフくんに初手覚醒COだ。
「奇遇ちゃお。ぼくもちゃお。」
なんと、覚醒対抗だ。このタイミングは両真もありうる。メタ推理になってしまうがワーウルフくんのいままでの言動からして狂人の可能性は低いだろう。俺はワーウルフくんを信用することにした。
「ぼくは、預言者として覚醒したちゃお。きみが覚醒COしにくることを、人狼の神がお告げに来たちゃおよ。それできみは、なにに覚醒したちゃお?」
「えっ?」
俺は驚いた。人狼の神なんてものがいることにも驚いたけれど。そうじゃなくて、俺は一体なにに覚醒したんだ?覚醒してなにが変わったんだ?なんかよくわかんないけど覚醒したカンジがひっしひしだったから、ああ俺覚醒したんだな~とおもっていたけれど。
「わからないちゃお。いろんなチャオにはなしをきいてきたけれど、みんなちゃんと神の啓示を得ていたちゃお。でも俺にはなんにもなかったちゃお」
「いや、きみはもうひとり、覚醒者を目にしているはずだよ。ほら、きみは何をしにここまできたのだったかな?」
そうだ、俺は人間男子のご主人サンをたおす方法をもとめて家を飛び出したんだ。そしてアイツも、覚醒していたじゃないか。
「そうちゃお。アイツをたおすちゃお。おれは覚醒したちゃお。おれの覚醒はマジすごいから、アイツが覚醒したところで、負けるはずないちゃお。いったい、おれはなにに覚醒したちゃお!?」
俺はワーウルフくんにつめよった。マジすごい俺がマジすごい覚醒をしたのだ。アイツに勝てないはずがない。じゃないとあんまりすごくないじゃん。
するとおもむろに河童が立ち上がった。どこからともなくラベルにアルプスくさい山の描かれたおいしい水のペットボトルをとりだし(でも中身が公園の水道水なのを俺は知っている)、頭の皿にぶちまけた。ばしゃああん。そして河童は美しいお辞儀をした。ワーウルフくんが分度器で腰と足の成す角度を計っている。90度だ。俺の眼前に河童のピカピカのお皿がつきだされた。ピカピカのお皿には俺が・・・いや・・・?
「これが・・・俺!?」
そこに映っているのは、超かわいいヒーローカオスチャオだった。超かわいくてマジすごい。
そう、俺は超かわいくてマジすごいヒーローカオスに覚醒していたのだ。
「そのかわいさなら、きみのご主人サンにも、きっと・・・」
俺は走り出した。これなら、勝てる。
アイプチにワンピースなアイツのかわいさにだって、勝てる!
俺は家に着いた。家が燃えていた。あらあら。
倒すべきアイツは無事だろうか。無事じゃなかったら、ドミニオンくんを一生恨もう。
かくして、アイツはアイプチにワンピースな姿で現場に現れた。現場っていうか、家の中にいた。ほっといたら死にそうなところから助けを求めている。たいへんだ!
俺は炎の中へ飛び込んだ。だいじょうぶ、カオスチャオはたぶん死なないからたぶんだいじょうぶだ。覚醒した俺にはアイツを助け出すことなんてハイパー朝飯前なのだ。だから俺とアイツはハイパー朝飯前に脱出成功した。覚醒したくせに死にそうになるなんて、アイツもまだまだだな。
「だから、おれの勝ちちゃお・・・」
アイツになでなでされて俺のポヨは思わずハートになった。アイツのかわいさもマジすごかったが、超かわいくてマジすごいアイツになでなでされておねむな俺のかわいさはもっとマジすごいカンジになっていることだろう。俺の圧勝である。ついにアイツに勝ったのだ。やった~。
数年後、アイツと俺は超かわいくてマジすごいアイドルユニットとして活躍することになったが、
どんなに売れてもキャメルくんからの借金はまるで返しきれなかったので、
ワーウルフくんのご主人サンの河童に9時間日光浴させ、
ドミニオンくんに揚げてもらって、
そしたら宇宙が消滅して無問題になったのでどうでもよくなりました。
MEDETASHI☆MEDETASHI