「切実に、未来永劫いつまでも、変わり続ける事の無いように」
陽だまりの中、1人の男が筆を持ち、手元のパレットを見て笑みを浮かべている。
誰も来ることが無い、静寂に包まれた森の中の一軒家。
柔らかい陽が差し込むその一室は、とても明るく、とても暖かかった。
決して定まることの無い。ひとつだけだから。
A-rt.1
目の前の紙には、黒鉛で薄く描いた絵がくっきりと浮かび上がっている。
いつもは、何も考えずに自分の思うがままに筆を動かしていたのにも関わらず。
今日だけは何か違う。男もそう感じていた。
儚い思いは砕け散る、そこだけが不可解だった。
A-rt.2
やがて男は苦悩する。こんなものでよかったのか。これはじぶんなのか。
一つ一つ、自分の中にある自分の理想像が崩壊していく。
もっと自分らしさを出そう。紙を握り、また一枚紙を取り出す。
次へ次へと向かっていく、それが自分なんだと言い聞かせる。
A-rt.3
思ったより筆は進む。真っ白な海に、いろんな色の魚を放流する感覚だ。
やがてそれらは群れを造り、自分たちの証を創る。
これを本当の意味で、創造すると表現するのだ。
やがてそれは絶頂をもたらす。だが、転機は急に訪れるのだ。
A-rt.4
半分の道程が終了した後、男は休息を取る。
自慢のパイプを出し、玉に火をつけ、煙を吸う。
しばらくし、その行動に何か意味を見出せるのだろうかと疑い始める。
結局は何かに逃げ、自分を隠し、その自分からも逃げる。
A-rt.5
パイプを床に叩きつけた。靴で玉を踏みつけた。
まだ、自分を捨て切って無かったんだと。まだ、絵を描くことを躊躇してるんだと。
思い切りが必要だ。自分に唯一欠けているのは、このことだ。
命を吹き込んだ、その形。距離なんて感じない。それが自分だから。
A-rt.6
今ある塗料を全てパレットに吐き出す。
自然と、量がまだらだった。そのせいか、パレットには、黄色系の色ができた。
マーブルのように、多少色の違いも見受けられる、一つの塗料だ。
虎のように自由気ままに、兎のように身分弁え。
A-rt.7
筆を塗料に浸し、しばらく考えてから紙に思い切り叩きつける。
自分の考えたとおりに。自分の感じたとおりに。その陽だまりを絵にしようというのだ。
この一室に一人でないと成り立たない。成り立つわけが無い。
欲望が自由と複雑に絡み合う様相を呈せ。
A-rt.8
ひたすらに黄色がまぶしい絵を作り上げていった。筆が盤上で踊り狂う。
上下左右、まるで意思があるかのように。
ひたすらに。そう、ひたすらに。
絶頂とは、その役目を果たした直後に訪れる一種の休息である。
A-rt.9
男は疲労困憊、イスに深く腰掛け、楽な姿勢をとっていた。
やっと、自分の最終地点へと辿りついたのだ。
筆とパレットを優しく置き、その一室を後にした。
その部屋には、陽だまりの暖かい空気と、「ひまわり」の絵が満ちていた。
ひまわりと楽しく映えている、黄色いチャオの姿と共に。