覚める夢 冷めない夢

 それは、2009年3月12日、さるチャオ幼稚園での事。
 校長は、悩んでいました。

「校長先生、やはり年々チャオカラテの参加人数は減る一方チャオ。何か対策を打たなければいけないチャオよ」

 夏に開催されるチャオの運動会サブ競技、チャオカラテの出場選手減少という重大な問題を、実行委員会の責任者であるオモチャオから報告されていたのです。
 そもそもこの問題は、チャオカラテという競技が発表されて僅か二年から発生していました。
 当時チャオの運動会と言えば、年に一度のイベントであるにも関わらずチャオレースしか競技がなかった為に、いつかマンネリ化してしまうのではと囁かれていました。
 これを受けた実行委員会の代表である校長は、新たにチャオカラテという競技を作り出したのです。
 当時のチャオ達には「闘って勝つ」という王道的なかっこよさを与える事に成功し、チャオカラテは瞬く間に注目を集めた競技となりました。これの影響により格闘技ブームが起こり、格闘ゲームが誕生初期のように売れ出すなどと言った社会現象にまで発展しだしたのです。
 しかし、事はそううまく行きませんでした。


「はどーけんが出せないから、カラテなんてやらない!」


 今ではすっかり伝説となった、とあるチャオの一言です。
 そう、格闘ゲームが売れた事により、チャオがそういった分野の知識を得た事による事件なのです。
 波動拳とは、格ゲー界では波動コマンドと呼称される程に有名かつ常識で、一般的には236+ボタン(パソコンのキーボードのテンキーを、スティックを倒す方向に見立てよう!)と入力する事で飛び道具が飛び出すコマンドの事を言います。
 他にも、623+ボタンと入力する事で一般的に対空技を繰り出す昇龍コマンド、214+ボタンと入力する事で一般的に突進技を繰り出す竜巻、または逆波動コマンドが存在します。これら三種類の技を、通称「三種の神器」と呼ぶのです。
 問題は、その236+ボタンの波動コマンド。
 三種の神器のコマンドを持つ元祖のキャラは、これを入力すると「波動拳」という名の技を繰り出します。己の持つ波動の力を形にし、そのまま相手に向けて撃ち出すといった技です。
 つまるところ、こういうこと。
 昇龍拳は真似できる。竜巻旋風脚も、まぁなんとか真似できる。
 だけど、波動拳だけはいくらやっても真似できない。
 これは、誰もが予想できなかった大問題でした。

 その後の出来事は、実に簡単。
 チャオの伝説の一言は瞬く間に全世界に伝わり、チャオ達のチャオカラテに対する情熱を一気に冷めさせてしまったのです。
 この由々しき事態に、実行委員会はなんの対策も打てないまま幾年か過ぎてしまいました。最近じゃ校長は「ポヨの高度が下がりつつあるね!」とチャオ達にバカにされる始末です。多分、人間でいう「禿げる」と同義の事だと思います。多分。
 また新競技を出せばいいのではないかという意見も幾度か挙がったのですが、校長はこれを却下しました。例え新競技を出したところでチャオカラテという競技を救うという解決にはならないと考えたからです。
 そもそもチャオカラテという競技を作り出したのは、前途の「闘って勝つ」というコンセプトを強く前に出した競技であり、そして事実それは多くのチャオ達に広く受け入れられた。例え人気は衰退の一途を辿ろうとも、ただこの競技を廃止にしただけではそれらが無駄になってしまう。それは校長としては避けたい事でした。
 校長に残された手段は、「闘って勝つというコンセプトをそのままに、チャオカラテを別の競技に生まれ変わらせる」という事だけ。

 しかし。
 どれだけ考えようと、その先の失敗のイメージを思い浮かべてしまう校長。なんで最近の格闘家達は飛び道具なんざ平然と使うかなぁと、心の中で八つ当たりをするくらいです。男なら拳一つで勝負せんかい。
 どれだけ頭を捻っても、どれだけポヨを振り回しても妙案が思い浮かばない。

「校長室にこもってても、良い考えは浮かばんのぅ」

 悩みに悩んで疲れ切った校長は、頭のリフレッシュをする為にチャオガーデンの様子を見に行く事にしました。
 それが、全ての始まりだったのです。


 場所は変わって、チャオガーデン。
 今日もチャオ達は、夏に開催されるチャオの運動会に向けて体を動かしています。
 しかしチャオ達のやる事と言えば、走る、飛ぶ、泳ぐ、登ると言った、移動関係の事ばかり。誰もカラテの練習をしようとはしません。チャオカラテの人気の無さが、目に見えてわかります。
 おや? そんな中でたった一人だけ、チャオガーデンの隅で本を読んでいるチャオがいます。その表紙は厚めで、ちょっと古惚けたような感じの本です。そんな本をただ一人でずっと読み耽っています。

「何読んでるのー?」

 そんな一人のチャオが気になったのか、さっきまでチャオガーデンを走り回っていたチャオの一人が歩み寄ってきました。それに気付いたのか、本を読んでいたチャオも顔を上げます。

「アーサー王物語」

 それを聞いた途端、歩み寄ってきたチャオのポヨはハテナに変わりました。どうやらその本の事を全く知らないようです。

「何それ?」
「アーサーって王様と、円卓の騎士っていう人達のお話」
「ふーん……」

 ぱっと聞いただけでは良くわからないので、横からその本を覗いて見ることにしました。しかし、書いてあるのは文字ばかり。これは絵本などではなく小説だったようです。
 ますますわからない顔をするチャオは気にせず、本を読んでいたチャオはページを捲ります。その時、横から覗いていたチャオが反応を示します。彼の目に映ったものは、鎧に身を包み、剣を片手に戦う騎士の姿が描かれた挿絵でした。

「かっこいいー!」
「これ? これはね、ランスロットっていう人だよ。円卓の騎士の中で一番強いんだって」
「なになに? なによんでるのー?」

 一人、また一人と、本の事が気になり始めたチャオ達が集まってきます。さっきまで一人で本を読んでいたチャオは、みんながこの本に興味を持ってくれた事で嬉しくなり、楽しそうに本の内容をみんなに話し出します。それを聞くみんなは、次第にその話で盛り上がってきました。
 やがて、この本に書かれた中世ヨーロッパの世界観や、騎士道に生きる者達の生き様に惹かれ、チャオレースの練習の事も忘れてみんなで本を読み始めてしまいました。
 そんな光景を、チャオガーデンの入り口から覗き見る影が一つ。

「こ れ じゃ」

 さながら音速でエミーから逃げ出すソニックの如く、その影は一瞬にして消え去ってしまいました。
 その正体は、紛れも無く校長先生なのでした。


 場所は変わって、闇の取引所(という名のちょっと広いロッカー)。

「なるほど、事情は大体わかったが……」
「どうじゃ! これならうまく行くはず……!」
「まぁ落ち着きな、校長さんよ」

 彼は闇の取引所を一人で運営している店主。商売柄、とても幅広い人脈を持っているスゴイ人で、チャオの運動会の資金関係が成り立っているのは彼のおかげなのです。
 校長先生とも密接な関係を持ち、ただの校長先生である彼に大きな権力を与えたのは店主であると噂されています。でも実はただの飲み仲間です。

「確かにいい考えだとは思うが、決定的な問題が無いわけではない」
「問題じゃと?」
「そうだ」

 渋い顔で校長先生を窘める店主。校長先生も釣られて渋い顔になります。

「資金をどれほど消費するかもわからないし、現段階ではどれほどの規模のイベントになるかわからない。何よりも問題なのは、夏までに間に合うかどうかだ」

 それを告げられた校長先生は、ハッとした顔になり、そしてその顔はみるみる沈んでいきます。そうです、次のチャオの運動会が開催されるのは夏なのです。ここでは何月何日とは書きませんが、少なくとも三月から準備を始めて間に合うかどうかが、一番の問題なのです。

「思いつきにしてはいいアイデアなのはわかる。しかしこいつを発表したところで果たしてどれほどの奴が食いつくかが問題になる。そこで規模を図らないと、金は用意に動かせない。小規模に収まっちまったらカラテの二の舞だし、かといって大規模になり過ぎれば過ぎる程、少なくとも今年には無理だ。来年を待つしかない」
「しかし……」

 校長先生は顔をどんどんと渋くさせます。
 仮にも大きな権力を持つ校長先生のいるチャオガーデン施設。ここはどこよりも多くのチャオが住んでいるのです。校長先生からすれば、今日始まりだした騎士ブームを少しでも冷めさせたくないと考えているのです。別に今発表してみんなに楽しみを与えてから来年を迎えてもいいのですが、今の校長先生にはそんな考えはありません。
 しかし、そんな見るに耐えない校長先生の顔を見て、店主は急に笑い出します。

「な、なんじゃい。急に笑い出しよってからに。わしはこれでも真剣なんじゃぞ」
「わかってる、わかってるさ校長。あんたの事だ、どうしても今年中にはこの競技を開催したいんだろう?」
「お、おお……! 店主、まさか!」

 期待が高まっている事がすでに表情に表れだす校長。店主はその顔に対し手を突き出して、親指をグッと立て——


「夢を見るのもいい加減にしろよ」
「おうふ」

 綺麗に下に向けましたとさ。
 校長先生も見事に体勢が崩れてしまいますが、すぐに復帰。間髪入れずに声を上げます。

「店主! そんな事を言わずに、頼む! チャンスは今しかないんじゃ! よっ、校長!」
「そいつはお前だ」
「おうふ」

 校長先生の必死の願いも届かず、店主は慣れたようにあしらいます。これでも長い付き合い、どこか抜けた校長の世話をするのは慣れている店主なのです。幾度となく無茶な頼みをされ続けている店主ですから、断るのも慣れっこです。
 しかし校長先生は一世一代のチャンスを掴まんとし、退くつもりはありません。

「明日も頼みに来るからな! 絶対だからな!」

 適当な捨て台詞を吐き、子供のように退散する校長先生。店主は頭の中で、これは本当に明日も来るなぁ、どうしたものかと考えているのでした。


 その夜。店主が店仕舞いをしている頃。突然電話の音が鳴り響きます。今時珍しい黒電話です。

「はい、もしもし。闇の取引所はもう閉店ですよー」

 面倒臭そうに受話器を取り、閉店を告げる店主。電話でも普通に闇の取引所と言う辺り、やっぱり闇でもなんでもないように思えます。

「よう、店主」
「ん? なんだお前か。どうしたんだ、こんな時間に」

 どうやら店主の知り合いのようです。店仕舞いを半漁人に任せ、店主は近くの椅子に腰掛けます。

「なに、仕事の話さ」
「仕事だぁ? 俺は今の所、お前に頼んだ仕事なんてないぞ」
「これから引き受けようと思うのさ」
「これから?」

 どうも話の意図が見えない店主、顔をしかめます。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「チャオの運動会の事だよ」
「……? そいつがどうした?」
「聞いたぜ、とうとう新競技だってな」
「!?」

 予想もしなかった言葉に、店主は驚きが隠せません。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「お前、そんな事どこから聞いた? その情報はどこにも漏れてないはずだ。そもそもまだ話としてしか挙がってない事で……」
「その話を直に聞いたからに決まってるだろう?」

 受話器の向こう側から漏れ出した言葉に、店主は苦い顔をします。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を——と、ここで店主が半漁人に目配せをし、棚の方を指差しました。半漁人は指示通りに棚の裏の方を念入りに調べてみると、何か小さな機械が見つかりました。

「……お前、まだウチに盗聴器を隠してやがったな」
「顧客情報管理と言ってほしいな」
「誰が客だ」

 半漁人から手渡された盗聴器を受け取り、店主は溜め息を一つ吐きました。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「……で、それがどうしたって言うんだ?」
「なに、簡単な事だ。協力してやろうと思ってな」
「協力? 新競技の事か?」
「そうだとも。例えどれほどの大規模になろうが、今年の夏まで簡単に間に合わせられる」
「おいおい、冗談よせよ。そもそも俺自体この話を呑んでないんだぞ」
「いいじゃないか。どうせ校長も諦めるのを知らないんだ。ここは望みどおり、新競技を見事に開催させるしかないだろう」
「確かに、断るのは骨が折れるが……」
「だったら実現させるのが一番簡単だ。そう思わないか?」

 そんな言葉を聞く店主の顔は、とても不可解そうです。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「なんでそんなに協力的なんだ? 別にお前にメリットなんて何もないじゃないか」
「別にいいじゃないか。校長の無茶だなんて今に始まった事じゃない。いつも通り付き合うだけさ」
「おいおい、それじゃあ理由になんか——」
「あんなオマヌケな校長に、いつまでも借りを作ったままでいたくないだけだ」

 受話器の向こう側から聞こえる真剣な言葉に、店主の顔も固くなります。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「……お前さ」
「なんだ?」
「あの校長が、そんな事を覚えてると思ってるのか?」
「そんなわけないだろう」
「……そうか」
「ああ」
「……ふはは、ははははは——!」
「はっはっはっはっはっは——!」

 店主も電話の相手も、何かがおかしくてしょうがないように笑い出しました。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させます。

「ははははは……よし、わかった。協力してくれるか?」
「勿論だ。俺達も総力をあげて取り掛からせてもらう。お互いにベストを尽くそうじゃないか」
「あぁ、これから忙しくなりそうだ。一週間後、また会おうじゃないか」
「一週間もいらん。二日で充分だ。その頃には会場の予定地が確保できる。一夜城でも立てる勢いで建設に取り掛かるさ」
「頼もしいな。それじゃあ二日後にまた会おう」

 その言葉を最後に、店主は受話器を切りました。店仕舞いの事は半漁人に任せて、店主は忙しそうにどこかへ出掛けるのでした。そんな店主が気になる半漁人ですが、店仕舞いの方を優先させ——


 そこで半漁人は気付きました。
 店主が気になって気になってしょうがなかったので、店仕舞いが全然進んでいないのでした。


 それから。
 後日に店主の知らせを受けた校長先生は、チャオカラテを廃止する事を決定し、新競技「チャオの一騎打ち」を行う事を発表しました。
 チャオカラテの時とは一味違った内容に多くのチャオ達が惹かれ、次々と参加者が集まりました。それに加え、チャオカラテの時とは一味も二味も違った内容に多くの人達が興味を示しました。お蔭様で、会場への入場チケットはあっという間に売れ渡ってしまいました。
 会場建設もビックリするほどのハイペースで行われ、本当に夏には間に合わせられる程の勢い。更に競技用の剣と鎧の製作も、店主の幅広い人脈のおかげか、大手企業が引き受ける事に。まさに抜け目のない企画となりました。

 そうして、今年の夏——


(——ワアアアアアアアアア——!!)

 耳が痛くなるほどの歓声を、校長先生は今にも泣きそうな顔で聞き入っていました。
 まるで夢でも見ているようだ。校長先生は、この日この時の為に集まってくれた観客達を見渡し、この競技をこの世へ広める為に協力してくれた人達の感謝の気持ちでいっぱいでした。
 しかし、そう思ったのも束の間。
 店主に校長先生の指定席へと案内されてそこへ腰を下ろし、改めて会場を見渡して一言呟きました。

「……想像してたよりも広いのぉ」

 校長先生のイメージでは、ミスティックルーインの古臭い自然に囲まれた、少し小汚いような会場です。
 しかしこの会場は、建っている場所や条件など、いろいろとクリアはしているのですが、何よりも目につくのがその規模の大きさ。確か店主の話では、規模に関しては大きく出来そうに無いと言われていた筈なのですが、いざ見てみると球場クラスの大きさです。まるでホンモノの闘技場のようです。チャオカラテ会場の何倍もの大きさです。

「無茶な頼みなのは承知だったんじゃが、何もここまで大きくしてくれなくてもよかったじゃろうに」
「いやいや、これでも小さいほうだぜ」
「何を言っておるんじゃ。チャオカラテ会場だってここまで大袈裟じゃないっちゅうに」
「見ればわかるさ。これでももう少し広くしていいくらいだからな」

 店主の意味深なその言葉にポヨを疑問符に変えながらも、校長先生は入場してくる二人の選手に注目しました。
 片や、軽装の鎧を身につけ両刃の剣を手にしたソニックチャオ。片や、ソニックチャオのよりは幾分か重装の鎧と片刃の剣を装備したシャドウチャオ。これに対しても、校長先生は首を傾げました。

「かなり本格的じゃのう」
「チャオ用のサイズにしてあるから人間用のより重いが、素材は一緒だ」
「はて、選手達はそれで大丈夫なのか? いくらチャオ用だからって動き辛いじゃろう。それにあの剣も本格的……まさか本当に斬れるわけではあるまいな」
「大丈夫だ、斬れやしないよ。それに……おっと、始まるみたいだ」

 店主の言葉を遮るように、試合開始の合図。それと同時に——


 会場の中心から、金属と金属がぶつかり合う音が、喧しく鳴り響きました。

「え゛」

 校長先生、目を丸くしてしまいました。それをよそに、観客達の歓声が沸き上がります。
 激しい鍔迫り合いの様子が、会場全体の空気をも揺らして伝わります。両者は同時に剣と剣を離し、お互いの剣が激しく交差する激戦へと移ります。だんだんと校長先生の顔がボケて、目・目・口と書くのに点を三筆で事足りるくらいに簡単な顔になるのを、店主の付き添いの半漁人は心配そうに眺めますが、どんどん激しくなる試合に再び目を奪われます。
 目にもとまらぬ接近戦から、シャドウチャオがソニックチャオを一気に弾き飛ばして距離を取ります。空中に投げ出されるソニックチャオですが、そこから体勢を立て直し、剣を構えて勢いよく後ろ回転。そのまま地面に接すると同時に、地面に衝撃波が走りシャドウチャオに襲い掛かります。しかしシャドウチャオはそれをギリギリまで引き寄せて宙返りで回避、同じように地面を斬り、衝撃波を走らせます。ソニックチャオはこれを防ぎますが、衝撃波を追いかけるようにして再び接近してきます。これを見たソニックチャオは剣をシャドウチャオに向けて投げます。シャドウチャオは飛んできた剣を軽々と空中に打ち上げますが、そうした頃にはソニックチャオはすでに目の前から格闘戦を持ち込みます。シャドウチャオの振る剣に怯みもせずに連打の嵐を浴びせ、足を蹴って転ばせます。上空からは、つい先程打ち上げた剣が降ってきます。危ない! と、咄嗟に転がって回避、そのままソニックチャオへと足払いを仕掛けます。上手く転ばせる事に成功、シャドウチャオは立ち上がり剣を振りますが、ソニックチャオも負けじと回避、再び剣を拾って接近戦へ——

「どこの天下一武闘会じゃアッー!?」

 ここにきて、ようやく校長先生からのツッコミが入りました。
 異常です。これがチャオの身体能力だと言うのかと、校長先生はとりあえず近くにいた店主へと抗議しました。

「一体わしの知らぬ間に、なぜチャオ達はああまでして強くなっとるんじゃ!?」
「やだなぁ校長、チャオ小説じゃこういったバトル物は何かしら生まれるのが当たり前じゃないか」
 ですよねー。俺も昔が懐かしいです。今じゃ黒歴史みたいに思ってますけどね。
「そんなメタな話は聞いとらん!」
「まぁ、実に簡単な話だ。みんなチャオカラテに絶望しつつも、実は修行していたって事だ」
「修行じゃと?」

 要約すると、こうです。
 波動拳なんて、どうせ撃てっこない。撃てっこないけど、諦めきれないから、頑張って修行した。でも結局、波動拳を撃つには至らなかったと。そういう事なんですね。

「ここまで強くなれるなら、波動拳の一個ぐらい撃てんでもよかろうに! 衝撃波走らせとるじゃないか! お主等そこまでして波動拳が撃ちたいのか!? 波動拳一筋なのか!? かめはめ波のパクリではないか! もっと言えば北斗剛掌波のパクリではないか!」
「この際どれでもいいじゃないか。それに誰しもそんなロマンを抱くものさ。若気の至りって奴だよ。男なら誰だって撃ちたがるもんだろう?」
 まぁ小学校低学年あたりで潔くやめて、現実見たほうが利口ですけどね。
「うむむむむ……わしも歳を取ったという事なのかのう……?」

 と、そんな話をしているウチに勝負がつきました。ソニックチャオが剣を高く掲げているのが見えます。どうやらソニックチャオが勝利したようです。
 観客が興奮冷めぬまま歓声と拍手を送る中、校長先生はどこか理解できないような面持ちでこの日を過ごすのでした。


 夏も終わりが近付き、秋の香ばしいニオイが近付いてきた今日この頃。
 新競技「チャオの一騎打ち」は、チャオカラテ以上の盛り上がりを見せました。チャオ達もすっかりこの競技の虜となり、それに伴い騎士ブームの到来がやってきました。またチャオカラテと同じような事が起こるかもしれないと世間でも言われていますが、今のところは新しい伝説の一言は飛び出していない様子。
 そういうわけで、急ながらも出来上がったチャオの一騎打ちは大成功に終わり、校長先生の願いは叶い——


「……わしも波動拳が撃ちたいのぉ」


 ——また新しい問題ができましたとさ。

この作品について
タイトル
覚める夢 冷めない夢
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
2010年3月10日