~桜色~
「もうすぐ、桜が満開チャオ~」
桜の木が立ち並ぶ並木道を、僕と、僕のチャオがとことこ歩く。
どの木も、花開くまであとわずかといった感じだ。
「そうだな。そうしたら、またお花見できるな」
こいつと出会い、こいつと暮らすようになったのは、一年前のちょうど今ごろ。
いまではすっかり、我が家になくてはならない存在だ。
僕は、去年したお花見のコトを思い出しながら言った。
返ってきた返事は、予想だにしないものだった。
「チャオ…。もしかしたら、お花見できないかもしれないチャオ…」
「え?」
僕は振り返る。
数メートル後方で、僕のチャオがうずくまっていた。
頭の上では、ぐるぐると渦を描いたポヨが浮かんでいた。
「どうした、おい」
駆け寄った僕に、チャオは何も言わなかった。そして、
「…」
そして、チャオは薄い繭に包まれた。
僕は、自分のチャオに何が起きているのか、ようやくわかった。
チャオは、寿命を迎えたのだ。
僕の脳裏に、チャオの言葉が浮かび上がる。
『もしかしたら、お花見できないかもしれないチャオ…』
チャオの寿命が一年程だとは知っていたけれど、まさかこんな突然に訪れるとは思わなかった。まさか、このまま――?
でも、僕は絶望したわけではなかった。
寿命を迎えたチャオが進む道は、二つ。
一つは、このまま静かに、安らかに天国へ旅立つコト。もう一つは…――
「あ…」
繭がゆっくり、確実に濃くなっていき、その色が判別できるようになると、僕は安堵の声を漏らした。
僕のチャオを包む繭は、ゆっくり、ゆっくりと、桜色に色づいていった。
数分後、繭がゆっくりと消えていき、その中から出てきた一つの卵を、ゆっくり揺すってやる。すると、
「…チャオ?」
中から、僕のチャオが――先ほどまでより一回り小さくなって、ひょこっ、と顔を出した。
「…えーと…」
僕が持つ卵の殻の中で、チャオはしばらく黙ってから、こう言った。
「…ただいまチャオ」
「…おかえり」
僕もチャオも、自然と笑みがこぼれた。
「なんだい、おまえがあんなコトいうから、余計な心配しちゃったじゃないか」
「チャオは、ホントに死ぬかもしれないと思ったチャオよ!初めての転生だったチャオ!ドキドキしたチャオ!」
転生しても以前と全く変わらないチャオをみて、僕はまた笑った。
チャオはまだ、殻の中できゃんきゃん喚いている。まぁ、なにはともあれ、
「今年も、お花見できそうだな」
「チャオ~、楽しみチャオ~」