最年少天才歌手 トル

―20XX年。

彼が1歩町に出れば、彼の周りには人だかりが出来る。

それはなぜか、すぐ分かる。

彼がICPにまだ入らない、もう1つの理由。

それは彼が『最年少天才歌手』だからだ。

将来、期待が大きい彼に、戦いで傷ついて欲しくない。そう誰もが思って、大統領からは『まだICPには、いれないように』と。

あの『人』の歌手が亡くなってから。もう1度だけ、あの人の声を聴きたいと言う人がたくさんいた。

唄番組では、彼の歌っている頃の画像が、流されたりした。

しかし、昔の物ではなく、今の物が聴きたかった。

本人でなくても言い。ただ、あの声が聴きたい。

ファンや、ファンでない人も、そう思っていた。

そんな時、

ホタル 「トル、あの『人』。大好きね」

トル 「大好きダヨ。
     こんなに善い歌。聴いた事が無いからネ」

トルはファンの1人だった。

いつも映像を見ては、口ずさんでいた。

そのうち、近所の人が聞きに来たりもした。

トルの声は、あの『人』そのものだった。

いつか、バーなどでライブも行ったりした。

いつか、テレビで取り上げられた事もあった。

いつか、新聞に載った事もあった。

あの『人』の声が聴きたくて、もう1度だけ聴きたくて。

多くの人がトルの声を聞きに来た。

トルのよく歌う歌は、『たしかなこと』。

いつか、唄番組で出るようにもなった。

歌うのは、彼が1番好きな、『たしかなこと』。

歌う前は皆、静かになる。聴いてるときも、終わった後の、一瞬も。

そして、彼は静かに歌い始める。

時を越えて君を愛せるか
本当に君を守れるか
空を見て考えてた 君のために今何ができるか


忘れないで どんな時も
きっとそばにいるから
そのために僕らはこの場所で
同じ風に吹かれて 同じ時を生きてるんだ


君にまだ 言葉にして伝えてないことがあるんだ
それは ずっと出会った日から
君を愛しているということ


いちばん大切なことは 特別なことではなく
ありふれた日々の中で 君を
今の気持ちのまゝで 見つめていること


どんな時も きっとそばにいるから



・・・聴きたかったあの『人』の声が、今、聴けた。

涙を流す者もいた、よほど聴きたかったのだろう。

あの『人』の声が・・・。

彼は、とても申し訳なかった。

あの『人』の唄を勝手に歌っていいのだろうか?

あの『人』は許してくれるだろうか?

あの『人』の唄でこんなに人気になっていいのだろうか?

2歳の『CHAO』の、小さな胸が、このような思いで一杯になっていく。

本当に・・・、いいのだろうか?



とある日、『アメジストチャオ無差別大量虐殺事件』が無くなった日。

彼はこの日の出来事を、神の、あの『人』からの罰だと思って、受け止めた。

その日から、彼は芸能界から姿を消した。

その日から、姿も変わった。

その日から、彼はTVに写らなくなった。

けど、彼はそれで良かった。

もういない、あの『人』に向かって、彼は言った。

トル 「ありがとう」


外に出ると、たまにこんな声が聞こえる。

あの子、天才少年のトルじゃない?

似てるけど、違うんじゃない?

けど、似てる。あの純粋な、可愛い笑顔。

彼は、その者達に振り返って、

TVに写っていた時に見せた、笑顔を見せた。


あの純粋な、可愛い笑顔を。


fin

この作品について
タイトル
最年少天才歌手 トル
作者
カオスソーサラ(メガライア)
初回掲載
週刊チャオ第278号