Project "CHAODOL" -物語と次元のお話-

とある高校の、とある部室。
小さな部屋に集まっているのは、男子1人と、女子5人。

【女子A】「そういえば漫画とかって、よく『○○は◎◎編まで』とか『△△は××編以降ダメになった』とか言うよね」
【女子B】「言いますねぇ。同じ作者の同じ作品でも評判がかなり違うこともありますし」
【女子C】「『NARUTOはサスケ奪還編まで』、『ブリーチは尸魂界編まで』あたりが有名どころか?あとちょっと違うけど『FF7以降は受け付けん』とかもよく聞くな」
【女子D】「『ホークスは南海まで』とか『オリックスはブルーウェーブに限る』とか?」
【女子E】「それは…だいぶ…違うと…思います」

【男子】「というかお前らせめてチャオの話しろよ!!ホークスは南海までとか読者誰もついていけねぇよ!!」


<Project "CHAODOL"/物語と次元のお話>


ここはとある高校の「アイドル部」。
部長である男子生徒、御崎涼太[みさき・りょうた]が『プロデューサー』となり、5人の女の子がアイドルユニット『ヒーローガーデン』として活動している。ちなみにホークスの福岡移転は1989年。彼らはそもそも生まれてすらいない。

【女子B】「…話を戻すと、漫画だと同じ作者が話を作ってるのに、こうなる原因って何なんでしょう?」
メンバーの1人、琴平絵美香[ことひら・えみか]、愛称は『えみか』。ヒーローガーデンのメンバーの中では比較的常識人である。但し、あくまでも「比較的」である。

【女子C】「漫画だとありがちなのが『人気が出たことによる引き伸ばし・無茶な展開』や『作者のネタ切れ』だな。あとはたまに『作者が本当に描きたかったもの』と『読者が読みたかったもの』がズレてたとかいうパターンもあるなぁ」
鹿川舞衣[しかがわ・まい]、愛称は『まいまい』。メガネをかけていて、ちょっと口が悪いが知識は豊富な女の子。

【女子E】「それって…すごく…悲しい…ですよね」
桂野瑞季[かつらの・みずき]、愛称『みずきん』。普段はほとんど喋らず、喋る際もこんな感じで小声でつぶやく感じである。

【女子D】「ホークスも福岡に移転してしばらくは悲惨だったしなぁ。色々あって今では人気実力、ついでに資金力もトップクラスだけど」
鶴木翔子[つるぎ・しょうこ]、愛称『しょーこ』。女子高生の会話で突然ホークスを語り出す程度にはスポーツ好きで、運動神経も抜群。

【女子A】「うん、あたし野球の話はよく分かんないけど、それは間違いなく違うと思うよ」
そして5人目が小賀坂優奈[おがさか・ゆうな]、愛称は『ゆーな』。ごく普通の17歳の女の子だが、ヒーローガーデンのセンターを務める。というより、普通だからこそセンターを務めている。

【御崎P】「ソニックはSADXまで!チャオ育成のないヒーローズ以降は認めん!…って話になるんじゃねぇのかよ!!」
…とまぁこのように、ボケ倒す5人に対して御崎がひたすらツッコむのが、アイドル部の普段の光景である。


何故「アイドル部」で「チャオ」なのか。
チャオというキャラクターがこの世から消え去ろうとするこの世界で、とある男子高校生…御崎涼太が思いついた「起死回生の策」が、「アイドル」だった。
つまり、「チャオラーのアイドル」をこの世に送り出すことで、チャオというキャラクターをこの世界に再び思い起こさせる、という作戦なのだ。

かくしてなぜか奇跡的にチャオを知っている女の子を校内で5人集めることに成功し、アイドルユニット『ヒーローガーデン』を結成するが、その実態はご覧の有様。
普段は部室でダラダラ過ごしながら適当におしゃべりをして時間になったら解散。まさに日常系4コマ漫画の世界である。

【御崎P】「まず『現在の福岡ソフトバンクホークスはかつて関西大手私鉄である南海が親会社であり大阪が本拠地だった』ってとこから説明しないと今の若い人はついていけねぇよ!?そもそも作者ですら南海時代のホークス知らないんだぞ!!」
【ゆーな】「…でもさー、分野関係なくオタクってそういうのたまにあるよね、基礎知識すっとばしていきなりマニアックな知識語りだすこと。掛け算の九九すら覚束ない小学生にいきなり微分積分喋りだすみたいな感じ?」
【しょーこ】「ご、ごめん…」
謝るしょーこ。

【まいまい】「たまに逆もいるぞー、微分積分を教えるのにわざわざ九九から始めてそれこそ隅から隅まで三日三晩かけて説明しないと気が済まない奴とかな」
【ゆーな】「あー、なんかそれも分かる気がする…」
【えみか】「でも実際そういう人からすると、いわゆる『一般人』の知識レベルっていうのがどれぐらいなのかっていうのが分からないですからねぇ」
【まいまい】「まぁそれもあるが、ぶっちゃけそういう奴ぁ『相手のことを考える』って感覚が根本的に不足してんだろ。オタク業界なんて右も左もコミュ障だらけの世界だしな。あたしも人のコト言えねぇけどさ」
【みずきん】「まいまいは…なんだかんだで…ちゃんと、考えてくれてるから…」
【まいまい】「お、おいバカ、そんなんじゃないって!」
【ゆーな】「あ、照れてる!かわいいー!」
【しょーこ】「かわいいー!」
【まいまい】「や、や、やめろおおおおっ!」
そう叫び残して、まいまいは顔を真っ赤にしながら部室を飛び出した。

【みずきん】「行っちゃい…ました…」
【えみか】「あれは確実に褒められ慣れてないタイプですね…かわいいとかあんまり言われたこと無さそうですし」
【御崎P】「それでよくアイドルやってるな…『かわいい』って言われるのが仕事みたいなもんだろうに」
【まいまい】「チャオドルにならないかって誘ったのはどっちだよ!」
思わずさっき閉めたばかりのドアを開けてツッコミを入れるまいまい。
【ゆーな】「あ、戻ってきた」
【しょーこ】「飛び出してから37秒…ある意味世界新記録だよ」

【えみか】「でもまぁ、チャオラーのアイドル、略してチャオドルって言っても、実際は適当に歌って踊った動画をネットに上げてるだけだからねー」
【ゆーな】「再生数も2桁、コメントに至っては未だにゼロ…実際問題『かわいい』って言われる機会すらないという…自分で言ってて悲しくなってきた…」
【みずきん】「あんまり…人気出ても…恥ずかしいですけど…」
【まいまい】「大体この程度のクオリティの動画ならネット探せばいっくらでも転がってるからなぁ。いくらチャオドルなんて野望立てたところで現実は厳しいってこった」
実際、彼女たち5人は一通り歌って踊れるようになっているとはいえ、「本物」のアイドルと比べてしまうと、素人に毛が生えた程度の実力でしかない。
動きも見る人が見ればバラバラ、後半は息切れ気味。もちろん、「そういうのが逆にいい!」…という奇特な人も、世の中にはいない訳ではないのだが。
【しょーこ】「いくら全国優勝って目標を立てても、現実に全国優勝できるのは1人または1チームだけだしねー」
【まいまい】「どこぞのアイドルアニメじゃあるまいし現実のアイドル業界にゃそんな大会ないが、まぁ似たようなもんではあるな」
と、話の流れからメンバーに現実を突きつけられていく御崎P。しばらく唸りながら頭を抱えるが、
【御崎P】「ううぅ…やっぱり3次元はダメだ!2次元のチャオ最高!!」
…現実逃避した。

が、その現実逃避に小賀坂が疑問を呈す。
【ゆーな】「…あれ?でもゲーム内のチャオってイラストじゃなくてポリゴンだから、厳密には2次元じゃないよね?」
【えみか】「その辺考え出すと間違いなくキリがなくなるからやめた方がいいと思うよ…」
【みずきん】「フィギュアは…2.5次元とか…聞いたことあります…」
【御崎P】「なんてこった…チャオは2次元ですらなかったのか…!」
衝撃の事実(?)に、ガックリと膝をつく御崎P。
【しょーこ】「そこショック受けるとこ!?」
【まいまい】「というか今更そこに気が付くのかよ!えみかも言ってたけどその辺考えすぎるとメチャクチャややこしくなるから2次元でいいよ!!」

【えみか】「でもさー、2次元がどうこうって言ってるけど、当のあたしらが2次元ですらないよね、ぶっちゃけ」
【ゆーな】「確かに、単発ネタってこともあるし、あたしらって外見の設定ほとんどされてないし…まいまいがメガネかけてるってぐらい?」
【御崎P】「まさかのメタネタ全開!?」
【しょーこ】「いやまさかでも何でもないと思うけど…」
【まいまい】「外見なんて飾りですよ、偉い人にはそれが分からんのです…ってか?」
【みずきん】「見た目は…やっぱり…大事だと…思うよ…」
【御崎P】「うん…見た目は大事だよ…君ら仮にもチャオドルなんだし…」
ちなみに、『ヒーローガーデン』の5人は外見的には「ふつう」である。そんなに都合よくチャオを知ってる女の子5人が可愛いはずもない。
しかし、多少崩れた顔でも画像加工してしまえばアイドルに『なれてしまう』時代である。極論を言ってしまえば、もはやアイドルに外見は関係ないのかも知れない。
ただし彼女たち5人については、撮った写真や動画などは一切加工せずにそのままアップしている。色々と綺麗事を理由として立ててはいるが、理由を突き詰めると、単純に『面倒なだけ』ではあるのだが。

【みずきん】「でも…2次元ですらないって…わたしたちは…何なんでしょう…?」
【まいまい】「一般的にはラノベとかも2次元に含めるが、ラノベにしたって絵がついてるしなぁ」
【えみか】「これは完全に文章だし、ある意味では『1次元』じゃない?」
【ゆーな】「それだ!1次元!!時代は1次元女子だよ!!あたしらの時代来るよ!!」
…ゆーなが何かを閃いたように拳を握りながら立ち上がるが、
【御崎P】「安心しろ!絶対来ねぇ!!」
そのツッコミであっさり元の席に座り直した。

【ゆーな】「というかいっそ、別に現実世界で流行らせる必要すらないんじゃないの?」
【御崎P】「…って言うと、まさか…」
【まいまい】「『この作品の世界はチャオが大人気!!チャオドルの5人組、“ヒーローガーデン”が超有名人!』…みたいな感じか?自分で喋っててちょっと虚しくなってきたけど」
【しょーこ】「虚しいよそれ!広島ファンと横浜ファンがセリーグの優勝を熱く語り合うぐらい虚しいよ!」
【えみか】「その2チームのファンに失礼でしょ…まー、そういう夢を自由に描けるのが創作のいい所ではあるわよね、たまに創作にツッコミばかり入れてる人いるけどさ」
【みずきん】「『ありえない』から、楽しい…んですよ、ね」

【御崎P】「つまり何が言いたいかっていうと、『チャオ小説最高!』ってことだな!」
【まいまい】「けっ、上手いことまとめようったってそうはいかねぇぞ!そうやって強引にオチに持ってくのはこの作者の悪い癖だ!」
【えみか】「まいまいもそうやっていちゃもんつけない!またグダグダになるよ!?」
何かよく分からない理由で一触即発になりかける2人だが、ゆーながなだめる。
【ゆーな】「まぁまぁ、2人とも…ここはひとつ、チャオでも育てて落ち着かない?」
…が、当の2人はピッタリ声を合わせてこう断った。
【2人】「「そういうのいいから!」」
【しょーこ】「って、あたしら一応チャオドルだよね!?」
【みずきん】「2人とも…ピッタリ…」

と、ここで学校のチャイムがなる。部活終了を告げるチャイム。解散の時間である。
全国大会を目指すような強豪の部活だとここからさらに練習が続くのだが、アイドル部はこのチャイムをもってさっさと解散するのが不文律となっている。
【御崎P】「あーもう!案の定グダグダだよ!!」
【しょーこ】「結局今日も練習してない…」
微妙に会話の続きをしながら、全員が一斉に荷物をまとめだす。
【えみか】「トップアイドルならぬトップチャオドルは夢のまた夢、か…」
そんな時、スマホをいじってたまいまいが一言つぶやいた。
【まいまい】「…あれ?動画にコメントついてる?」

【ALL】「えええええっ!!??」
全員が慌ててまいまいのスマホを覗き込む。ぎゅうぎゅうである。
【まいまい】「待て待て!お前ら暑苦しい!自分のスマホで見ろよ!!つかセクハラ寸前だぞ御崎ぃ!」
【御崎P】「悪い、あまりの衝撃でつい…」
改めてそれぞれに自分たちのアップした動画を確かめる。

『わたしもチャオ好きです!「チャオドル」の皆さん、がんばってください!』

【御崎P】「これ…コメントつけたのお前らの誰かじゃねぇよな?」
【えみか】「そんな面倒臭い自作自演やりませんよ…」
【まいまい】「部室に入る時にはコメントついてなかったぞ?」
【みずきん】「みんな、今日はここで…しゃべってたから…コメントつける暇なんて…ないし…」
【しょーこ】「おいおいマジか…こりゃ横浜優勝しちゃうんじゃないのか…?」

そして、ゆーながぽつりとつぶやいた。
【ゆーな】「なんか…ちょっと、頑張ってみよう、って思っちゃったかも…」
他のみんなも、声には出さなかったが、考えたことは、ほとんど同じだった。


そして彼女たちは、スターへの道を駆け上がることになる…

…かもしれない。やっぱりならないかも。


                                おわり。

この作品について
タイトル
Project "CHAODOL" -物語と次元のお話-
作者
ホップスター
初回掲載
2015年12月23日