高速ハイハイチャオ
ボクは、ステーションスクエアガーデン出身のチャオ。
名前はまだないちゃお。
産まれてすぐ、お散歩マシーンにぶちこまれたちゃお。
だから、ガーデンのお友達にはあったことないちゃお。
お散歩で、いろんな木の実を食わされたちゃお。
ステータスもほぼマックスちゃお。
時々現れるいじめっ子も、ぐるぐるパンチ一撃で撃退ちゃお。
毎日ピコピコとお散歩の繰り返し。もう、お散歩していないルートもなくなってしまったちゃお。
それでも、毎日同じお散歩の繰り返しちゃお。
はあ、チャオはなんの為に産まれてきたんちゃお?人生の意味を教えてほしいちゃお。
先日、こんなことがあったちゃお。
ビジュアルメモリの外に初めて出たチャオ。
初めて見る外の世界。そこには、七人のチャオがいた。
津々興味、そのチャオ達に近づき、初めて見る自分以外のチャオに話しかけてみる。
「ふん、今度の挑戦者は、お前ちゃおか?」
そのチャオ達の目は、どこか怖かった。
「ちゃお?」
今までお散歩したことしかないチャオは、その視線に耐えられない。
「やだちゃお。なんかみんな怖いちゃお。」
まだ誕生から三秒と経ってないその幼い体が、知らぬ間に震える。
「おいおい、こいつ震えてるちゃお。こんなヤツがオレ達に挑もうっつうちゃおか?」
「ぼうや、ここは君が来る所じゃないちゃお。さあ、とっととエントリー取り消すちゃお。」
産まれたてのチャオには、その意味が分からなかった。
「がたがたうるさいちゃお!」
その時、部屋の片隅にいた黒いチャオがどなる。
お散歩しかしていないチャオをガヤガヤわめきたてていたチャオも、なぜか押し黙った。
「あ、あなたは誰ちゃお?」
まだ名も無いチャオは、その黒いチャオを改めて見直してみる。
彼も、自分と同じく産まれたてのチャオみたいだった。
しかし、その目はえらく冷たかった。他のチャオ達とは、あきらかに違うチャオだった。
「ふん、お前なんかに馴れ馴れしくされる覚えはないちゃお。」
黒いチャオはいちべつくれると、そっぽを向いた。
なんか、よく分からないチャオちゃお。
「おい、あまりチャクロン様を怒らせるなちゃお。」
さっきまで名も無いチャオをからかってたチャオがそっと言ってきた。
「チャクロン様?」
「ああ、今度のレースは、ヤツの為にあるちゃお。まあ、オレ達はヤツの引き立て役にしかすぎないちゃお。」
産まれたてのチャオには、なんのことだか分からない。
「そうちゃおなあ、よくよく考えてみれば、オレ達もお前とあんまり変わらないちゃお。さっきはすまなかったちゃお。」
「え、え?なんで謝るちゃお?ボクにはなんのことだか、よく分からないちゃお!」
「お前、本気でそんなこと言ってるちゃおか?」
お散歩もどりのチャオの受け答えに、信じなれないといった表情を浮かべる。
と、その時。突然床がせりあがる。
そして、番号のふられた枠のある変な部屋にでた。
「さあ、お前もどこかの枠につくちゃお。」
なんだかよく分からないが、とりあえず二番の枠に入った。そこは、あのチャクロンの隣りだった。
わーわー。きゃーきゃー。
産まれたてのチャオは突然、どえらい数の人間の前に立っていた。
なんのことだかはよく分からない。
「がんばれよ~。」「お前を応援してるからな~。」「チャクロ~ン、また稼がせてくれよ~。」
飛び交う歓声のなか、ある掛け声がした。
「レディ、ゴー!」
チャオ達はみんな一斉に走り出した。
チャクロンと産まれたてのチャオを残して。
「お前は走らないちゃおか?」
ふと、チャクロンが話しかけてきた。
「え?え?ひょっとしてここは、みんなでカケッコでもするちゃおか?」
なんとなく事情の飲み込めてきた名も無いチャオ。
「そうちゃお。やっと分かってきたちゃおか。」
「だったら、なぜチャクロンさんは走らないちゃお?」
そう問いかけるお散歩帰りのチャオを、にらみつける。
「ハンデちゃお!貴様等じゃ相手にならないちゃおから、こうして待ってるちゃお!お前もとっとと走るちゃお!」
名も無いチャオは、走った。
いや、まだ歩くのもままならない彼は、信じられないスピードでハイハイした。
先に走っていたチャオ達も、あっけなく追い越した。
名も無いチャオは、表彰台の一番高い所で、みんなの拍手をあびた。
そして今、ビジュアルメモリの中にいた。
アレは、なんだったのだろう?
ボクは、アレだけの為に産まれてきたのだろうか?
こんな一昔前なドット表現は、もう耐えられない。
それ以来、この名も無いチャオを見かけたものは居なかった。
おしまい。