『きっと たぶん いつか どこかで』

『きっと たぶん いつか どこかで』

いつもは君がいたその場所を、僕は振り向いてみる。けれど、
いつもと変わらない、僕の部屋の景色が、僕の目に映る。けれど、でも、
いつも、君がいたその場所は、あの頃と全く同じままだというのに、でも
いつも、君がいたはずのその場所に、君だけがいない。

それは、つまり、どういうことなのだろう。

でも、それは、きっと。

僕は君が、そこにいる事を望んでいる。
僕は君が、そこにいる事を願っている。

そして僕はたぶん、君が「そこ」にいる気がしている。
そこにいるはずだと、思っている。
でも、本当はもう、君は「そこ」にはいない。もう、いない。
僕は、本当はもう、そのことを知っている。

チャオには寿命というものがあることなら、僕だって知っている。
そして残念ながら、僕には時間を止める魔法は、なかったんだ。

そして、今の僕の部屋は、君がいた分の空間が空いたままだ。
そして、今の僕の心には、君が帰ってきた時のためにだけに用意された、
小さな部屋が1つ増えた。ただ、それだけの話だ。

僕と君との間にあった、あやまちだとか、誤解だとかが、
僕と君との間にあるべき言葉を飲み込んでいってしまっていたよね。
あの頃の、僕と君とで抱きしめていたものたちと、
僕と君とで、もう一度出会えるなんてことは、もう二度とありはしないんだ。

 でも僕は、きっと、いつか、それはあると思っている。

僕と君とが、誰も登った事のない坂道を登っていったのは、
その登ってきた坂道を、
僕と君とで、振り返ってみたかったからなのだろうと思う。
僕と君とは、世界中のどのチャオも、なったことのない「色と形」を目指していた。
「世界中のどのチャオも、なったことのない色と形」。
それが、きっとあるはずだと思っていた。
そこに届くはずだと思っていた。
それを手に入れた先に、何があるのかは、知らなかったけれども、

けれど、それは叶わなかった。

今、君はあの可愛らしい瞳で、僕が大好きだったあの瞳で、
あの空の上の世界で、何を見ているのだろうか。
そして、僕は今ここで、何を見ているのだろうか。

今の僕が、一体、何を見ているのかは、もう僕にはわからない。
けれど僕はどうやら、何かにつまずいてしまったようなのだ。
けれど、僕が何につまずいてしまったのか。
僕がつまずいてしまったものは、どうやら僕には見えないものだったんだ。
でもどうして、僕はそんな見えないものに、つまずくことになってしまったんだい?
でもどうして、僕はそんな見えないものに、今もつまずいて転んだままでいるんだ?

僕と君との間にあった、約束だとか、
僕と君とで示す事が出来た勇気だとかは、
きっと、どこかに、そのままの形で存在しているはずだろう。
そしてそれの、その影だけは、今もそのままで、その形の影のままで、
あの頃の、僕と君とが追いかけていた「夢」とかって呼ばれているものと、
いつか重なる日が来る、のだろうか?

 でも僕は、どこかで、あると思っている。

僕と君とが持っていた力なら、
全てを乗り越える事が出来ると思っていた。
全てをかなえる力があると思っていたんだ。

デモデキナカッタ

僕のあげた叫び声は、ちょっと大きすぎたようで、僕の耳に耳鳴りを起こした。
そしてその耳鳴りは、どうやら今も鳴り止みそうにない。

僕と君との間にあったはずの、約束だとか、
僕と君とが示す事が出来ていたはずの勇気だとかは、
きっと、どこかで、そのままの形でいるはずなんだ。
少なくともそれの、その影だけは、今もそのままで、どこかにあるはずで、
あの頃の、僕と君とが追いかけていたものと、
いつか重なる日が来るのだろうと信じている。

きっと たぶん いつか どこかで

この作品について
タイトル
『きっと たぶん いつか どこかで』
作者
ぴかそ
初回掲載
週刊チャオ第90号