かんたんのゆめまくら。

昔々あるチャオガーデンに、一匹のチャオが住んでおったそおな。
彼はクソみたいなアビリティなくせして、いっちょまえにチャオ空手を制覇しようと、叶わぬ夢を見ていました。
アビリティがクソみたいなチャオは、どうすればチャオ空手を極められるのか、軽いおつむをフル回転さえて考えます。
ガーデンのお友達は皆、テレビの前に集まり、ピッグキャットがいたずらネズミを追いかけるアニメに夢中です。
でも彼は、考え事に夢中でそれどころではありません。
「そうちゃお、もりもりの実をもりもり食べるちゃお!力がもりもり沸いてくるちゃお、間違い無いちゃお!!」

彼は早速、もりもりの木にジョウロで水をやります。
そしてチャオの遺伝子に組み込まれた、木の実の成長を促す儀式の踊りをおどります。
「ふわ~…。」
踊り終わるとふと、眠気に襲われます。
ない頭をフル活用したので、疲れてきたのでしょう。
彼はうとうとと、眠りにつきます。


いつの間にか木の実は熟し、チャオの前に落ちてきます。
チャオは木の実の前に座り込み、香ばしい匂いにうっとりしてます。
「ん~。」
おいしそうな匂いに、思わず身震いしちゃいますが、そのまま一気に木の実を食しました。
「あっぽあっぽあっぽあっぽ…。」
すると、どうしたことでしょう?
もりもりと力が沸いてきたような気がします。
チャオは早速チャオ空手に挑むとなんと、見事中級を制覇します。

「わ~い、もっともりもりの実を食べて、上級も制覇するちゃお!」

ところが、そんな思いと裏腹に、チャオは転生しちゃいました。
しかし、チャオのチャオ空手制覇の夢は、転生後も強く残ってました。
…って、ゲームキューブの転生って、単なる年齢のリセットなんだけどね。

またまたもりもりの実をもりもり食べ、今度はチャオ空手上級を見事に制覇しました。
今度は超級だ!
超級で待ち受けるチャオ達は誰も、一筋縄ではいきません。
チャオはそこで、幾度かの転生を経験しました。
しかし、その転生を繰り返した後に、見事に超級を制覇することが出来たのです!

「わ~い、ボクが一番強いちゃお~!」
「ふっ、見事ちゃお。」
喜ぶチャオを、超級の王者・マスチャッツは祝福します。
「あったりまえちゃお。ボクはチャオ空手制覇が夢だったちゃお。」
しかし、喜ぶのもつかの間、またまたチャオは転生の時を向かえてしまいました。
「そ、そんな、せっかくここまで来たちゃおに…。」
薄っすらとマユに包まれていくチャオ。
またまたスキルが十分の一となってしまい、またもりもりの実をもりもり食べなくっちゃなりません。
その悲しみからなんと、このマユはピンク色ではなく、灰色です!!

「おい!死にたくないちゃおなぁ!」
マスチャッツが叫びます。
次第に濃くなっていく灰色のマユの中で、チャオは悲しげな瞳でうなずきます。

「だったら、これを使うちゃお!」
マスチャッツはなんと、自らの黒光りするライトカオスの着ぐるみを脱ぎ捨てると、そのマユの中へ投げ込みます。

チャオはマユの中で、黒光りするライトカオスの着ぐるみに袖を通します。
そして、灰色のマユをぶちやぶりました。

そう、チャオは黒光りするライトカオスへと、進化をとげたのです!

そしてマスチャッツは、単なるドノーマルチャオになりました。
「良かったちゃお。これでボクも、みんなのもとへ行けるちゃお。」
今度は、マスチャッツが灰色のマユに包まれます。
「え?マスチャッツ?お前、どしたちゃお?」
「あとは任せたちゃお。今から君が、マスチャッツちゃお!」
「わかたちゃお。まっかされろ~ちゃお!」

クソみたいなアビリティだった弱っちいチャオ。
そんな彼は、ついに超級王者となったのです。
「みんな、やったちゃお!ちゃお?」
彼がお友達に自慢しようとガーデンに出向くと、彼の知っているお友達は一人もいません。
そう、みんな死んでしまったり、転生してしまい、誰が誰なのか、分からない状態でした。

ライトカオスとなった彼は、死ねません。

これから先、一人で生きていかなければならないのです。
チャオ空手超級の王者として。
いつ現れるかも分からない挑戦者を待ちながら。


「そんな、そんなのって、ふえ~ん。」
不意に湧き上がる孤独感に、チャオは泣き出してしまいました。

目の涙を拭うチャオは、はっとあることに気が付きます。
黒光りするライトカオスのおててが、元のおててに戻ってます。
彼ははっと、辺りを見渡します。

テレビの前には、見覚えのあるお友達たちが座ってます。
かっこいいピッグキャットのアニメが流れてます。
彼が目の前のモリモリの木を見上げると、そこには小さな木の実がありました。
そう、今までのことは、彼が見た夢だったのです。
それも、僅かな時間の出来事です。
今までの、チャオ空手を制覇する時間も、ほんの僅かな時間でしかありません。
ああ、人生とはなんてはかないものなのでしょう。


クソみたいなアビリティなチャオは、チャオ空手を制覇しようとは思わなくなりました。
そんな中身の数値にこだわるより、ガーデンのお友達と戯れるほうが、楽しいのでした。



おしまい。

この作品について
タイトル
かんたんのゆめまくら。
作者
あさぼらけ
初回掲載
週刊チャオ第145号