一人キーワード小説
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僕が "チャオとして生まれた" のは平成十年の五月五日のことだ。平成の漢字を見るたびに僕は "仮面ライダー" を思い出す。余談である。
一秒一秒をただ何となく生きて行くうち、チャオガーデンはいつの間にやら "ハイテク" になってしまった。
自動木の実生成機。完全な衛生管理システム。水質、空気環境、共にチャオにとって最も過ごしやすい "世界を構築" しているのだ。
そのお陰で、人の手を煩わすことなく、チャオはより自由に生きられるようになったと言えるだろう。
技術の進歩は、チャオの飼育環境も変えてしまう。
今まで大富豪の道楽であったチャオの飼育はその "パフォーマンスの向上" によって、より多くの人の手に渡ることになった。
そうして、僕がチャオである必然性は失われたのだ。
簡単なメンテナンス。安価。チャオもどき。お金がなくたって大丈夫。それらの謳い文句は泡沫の幻想だった。
非常に簡易な量産システムの影響を受けて、僕たちは世の中に広まった。でも、技術の進歩は僕たちの運命すらも歪ませてしまう。
"ああ、どうか神様、そんな悲しいことをしないで下さい" ——僕はそう祈る。
用済みだった。僕はチャオであって、チャオではない。本物が軽々しく手に入る以上、偽物の出番はおしまいである。
小さな子供が佇む僕を怪訝な目で見つめる。"チャオというのは子供に似ている"。僕はそう感じた。
大丈夫? 子供はそう尋ねる。
"大丈夫だ、問題ない" ——僕はそう返す。
いつしか子供が用済みになる日も来るのだろう。技術の進歩は残酷なのだ。自分たちの居場所をどんどん奪って行くから。
僕はひとりぼっちだ。
僕は進化しない。
僕は歌を歌わない。
僕は泳がない。走らない。眠らない。笑わない。
"僕という存在は固定されている" 。
あれほど珍しかったチャオの存在も、いまや街中のいたるところで見掛ける。一匹のピュアチャオがデパートの客寄せに使われているのを見て、僕の心に渦が生まれた。
そこにいるのは、僕たちのはずだった。
チャオは僕たちの居場所を奪う。
みんなが欲しいのは本物なのだ。僕は妥協される物。妥協する必要がなくなれば、それは当たり前のように "消え行く運命" 。
僕には生きる意味がない。自分で自分を殺すことも出来ない。
そんな僕は、一体どう生きて行けばいいのだろう。
ああ、ひとりぼっちだ。
整備不良で体が軋む。"油が欲しい" ——僕はそう思った。
誰も、僕に目をくれない。
僕は本物に負けて、偽物として舞台を去る。
"これではまるで道化だよ" 。
もし技術の進歩が世界を自由に作り出せるとしたら、この世界は用済みになるだろう。もし技術の進歩が人を自由に作り出せるとしたら。
そのとき人は、どうなってしまうのだろう。
ママー、あれなにー?
"しっ、見ちゃいけません!"
僕は雪に埋もれて行く。
もしもサンタクロースがいるのなら。どうか僕に心を運んできて下さい。僕に愛を運んできて下さい。僕に——ギギ。
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ああ、あれね。壊れてたから拾って来たんだ。
ふっ、俺がマイナー好きであることをお前は知っているだろう? え、なに、"ミーハー" なだけだって? ほっとけ!
そうだ、今思い付いたんだけどさ、"ホット景気" ってなんか良い響きじゃね? あ、そんなわけない。そうですか。
……。
またその話かよ。拾って来たんだって。本当だよ。お金ないし、壊れてたし。
え? 優しい?
ふっ、まあな。俺は無機物の心の声が聞こえるのさ。
……。
いつだったっけなー。そう、確かあれは、俺が "中止のお知らせ" を聞いて盛り上がってた次の日だから、そうそう!
俺にとってのクリスマスプレゼントはコイツさ。
"一日遅れのクリスマス" ってところか。
ああ、俺、なんてポエマーなんだろう——げしっ。