~不幸せの赤い鳥~ ―Phoenix―
――私の目の前には、都会の夜景が広がっている。煌びやかに輝くネオン、上空には漆黒の闇に浮かぶ小さな輝きが世界を淡く照らす。
――私はその景観を、きっと穏やかな気持ちで眺めていただろう。…目の前の、この忌まわしい鉄の棒が無ければ。
――迂闊だった。三日前、私はここで捕まった。不死鳥ともあろう私が、なんと情けない。
――まさかニンゲンが、点々と餌を配置した先に檻を仕掛けるという、高度かつ狡猾な手段を使用してくるとは。
――それから3日間、私はココに監禁されている。その間飲まず食わず、そろそろ体力も限界だ。
――私はココで朽ち果てるのだろうか。不死鳥とはいっても、やはり死の瞬間は怖い。ソレもこんな惨めな死に方で。屈辱だ。
――……そろそろ眠くなってきた。再び生を授かるコトを祈りつつ、私は……ん?
――……なにやら外が騒がしい。なんだ?
がしゃんっ
――鉄格子越しに、私はソレを見た。鉄とアスファルトが接触する音を響かせ、私の目の前に降り立ったモノを。
――幸せの青い鳥…ではなかった。
――前に歩を進めるたびに、がしゃん、がしゃんと音を立てるソレは、紛れも無く機械だった。
――二本の足で体を支え、歩く姿は、どことなく鳥に似ていた。
――そしてその鳥に似た機械は、鮮やかな青色をしていて、そして、凶悪な武器を装備していた。
がしゃっ
――バズーカの照準が、私を狙う。なぜ私が狙われているのか、皆目見当がつかなかった。だが、どのみち私は死ぬのだ。もうどづでもいい……
「伏せて!」
――突然だった。鳥に似た機械の操縦者――驚くことに、幼い、狐の少年だった――が、そう叫んだのだ。
――私はその通りに、出来る限り体勢を低くした。そして、
――轟音が響き渡った。
――私めがけ飛んできた弾丸が、私を逃がすまいと囲っていた檻を吹き飛ばしたのだった。
――私も一緒に吹き飛ばされそうになったが、なんとかその場にとどまった。……私は……。
――狐の少年は、私に、にこっ、と笑いかけてくれた。……私は……解放されたのだ。
――私が言葉を話すコトが出来ればと思うと口惜しくてたまらない。お礼を言うコトが出来ない私は、狐の少年に、何回も何回も頭を下げた。
――私は狐の少年の笑顔を、しっかりと頭に刻み込んだ。あなたは私にとって、幸せの青い鳥だ。
――この恩は、いつか必ず、必ず返す。そう心に誓い、私は夜空へ飛び立っ…
がしっ
――……え?
「やったぁ、フェニックス見っけ!コレで、僕のチャオもっと速くなるぞ!」
――……え?え?
「この間教えてもらった『むげんだっこ』をすれば、とっても速くなるぞ!」
――ちょ、おま、
「はやく帰ろーっと」
――マジかよ、ありえねぇ。やめろ、はなせ、
…
たすけてー。
…
数日後チャオガーデン周辺で、一匹の衰弱しきったフェニックスが発見、保護されたという。