第一話 変化する戦士たち

 昔々、七つの不思議な宝石がありました。
 その宝石を手に入れた人は凄い力を手に入れ、英雄となるのでした。
 七つの石の力はそれだけではありませんでした。
 七つの石全てを一つの所に集めると、人々の願いを叶えてくれるのです。
 そうだ、ずっと七つの石が一つになっていれば、皆の願いが叶い、全ての人間は幸せになるに違いない。
 ある時、そう考えた王様が、七つの石をくっ付けて、一つの石に変えました。
 そしてこの石を狙う悪い人たちをやっつけるために王様は石に願い事をして、素晴らしい剣を作ってもらい、それを兵士たちに持たせました。
 こうして王様は願いを叶える石を使って世界を平和にしたのでした。
 これがこの世界に伝わる、不思議な石と不思議な剣の物語。


 物語の通りに世界は続いているというのに、悪者は混沌の石を奪い去っていってしまった。
 まるで世界が崩れていく途中にあるようだとウォンドは感じた。そして崩壊を止める者として自分が選ばれたことを幸運に思っている。
 混沌の石を取り戻し、平和を取り戻す。そのための英雄探しが始まって数か月。混沌の石や混沌の剣との相性がいい人間が二人新たに見つかった。その一人がウォンドであった。
 彼は、どうして自分が混沌の石と相性がいいのかわからなかったが、英雄に選ばれるようなことをしていた覚えはあった。
 人助けをするのが好きである。困っている人がいると、どうにかしてあげたいと思う気持ちがあった。おそらく英雄に求められているのは普段やっている人助けとそう変わらないだろう。
 もう一人の英雄は女性であった。顔つきは凛々しく正義の味方が似合いそうであったが、筋肉の硬さが見えない体つきで、女性らしさだけの肉体であった。
「一日も早く、混沌の石を取り戻してほしい。あの石は、混沌と言われるだけあって、何もかもを叶えるだけの大きな力を持っている。だからこそ、叶えてはならない願いもあるのだ」
 王はそう言って、二人に剣を渡す。混沌の石が生み出した剣、混沌の剣である。柄にはレイピアのように、手の甲を覆う部位があった。そこに様々な色の宝石が飾られていた。武器というよりも、武器の形をした芸術品に見えた。

 城から出ると、ウォンドは剣を抜いてみた。赤い宝石のような輝きが僅かにある刃であった。じっと見ていると、その刃の中で青や黄、紫の光が稲妻のように走っていた。稲妻は育っていき、赤い刃がいつの間にか青っぽく変化していた。そしてなおも変化を続ける。まるで泉の底に沈んでいる神秘の物体のようで、刃の形さえも徐々に変わっていくのではないかと思わせるほどであった。さらに、持っているだけで力が湧いてきた。普通の人間では到底できないようなことをやれてしまうような自信があった。
「凄いな」
 隣でこれと同じ剣を受け取った女が見ていたため、ウォンドは彼女に聞こえるよう呟いた。
「ウォンドはこれからどうするの」と女が聞いた。ウォンドは思わず彼女の方を見た。
「なんで俺の名前を?」
 名乗っていない。彼女がいるところで名前を呼ばれてもいない。
「覚えてないかな。昔、君が正義のヒーローやってた頃、僕は君に助けられたんだ」
「正義のヒーローって、もしかして、あれか」
「そう、あれ。人助けのチーム」
「ああ、懐かしいな」
 幼い頃に、ウォンドは友人を集めて、正義のヒーローごっこをしていたのだった。それも遊びという規模ではなく、困っている人を助け、ルールを守らない人をこらしめる活動であった。自分は正しいことをしているという自負と、何人かの集団であるという心強さとで、大人が相手だろうと容赦はしなかった。ウォンドは小さい頃から腕っぷしは強かったし、大人に勝つために武装もしていた。
「ええと、君の名前は」
「クリス」
「クリスちゃんか。えっと、ごめん、思い出せないや」
「いいんだよ。僕、助けてもらっただけだから、覚えてないのも無理ないよ」
「僕って自分のこと、その時から呼んでた?」
「うん。ずっと、僕だよ」
「そうか」
 自分のことを僕と呼ぶ少女であれば印象に残っていてもおかしくないとウォンドは思ったのだが、そのような子を助けた記憶はなかった。小さい頃の話だ。周囲の人間の何もかもを暴き立てるくらいの勢いで活動していたから、助けた人間こらしめた人間の数は相当なものになる。彼女のこともその中の一つとしてくくって、忘れてしまったのかもしれなかった。
「ごめん、思い出せなくて」
「いいってば。それよりもさ、一緒に行かない?」
「え?」
「なんかさ、君でも一人で行くのはちょっと心配だし。僕も不安なんだよね。だから一緒にどう?」
「そうだね。一緒に行こうか」

このページについて
掲載日
2013年8月19日
ページ番号
1 / 5
この作品について
タイトル
Crisscross
作者
スマッシュ
初回掲載
2013年8月19日