~City Escape~ ―3rdMission―

「ッたく、ちょっと目を離すとすぐコレだ。ここら辺は車も多くて危ないんだからな」

そういってソニックは、ボクの頭をわしわしと撫でる。
その表情は、何度言っても言うコトを聞かないボクに対する呆れと、ボクが無事だったコトに対する安堵が入り混じっている。

ソニックは優しい。だから、そのソニックの気遣いを無視するコトには、やっぱり後ろめたさを感じている。
でも、どうしても、僕は抑えられない。狭いガーデンを飛び出して、街中へ飛び出して行きたいという衝動を。


特に、今日は。


ボクは、いつもの場所に来ている。
壁にポッカリ空いた、小さな穴。ココがボクの、指定席。

ボクはぺたんと座り込む。今頃、またソニックはボクがいないコトに気づいて、心配しているかもしれない。呆れ果てているかもしれない。
ごめんなさいソニック。でも、今日はどうしてもココに来たかったんだ。


…。

ボクは、しばらく無言で呆けていた。目の前に広がる光景を、しっかりと両目で見据えて。
そのまま、しばらくの時間をすごした。何分ぐらい経っただろう、ボクは誰かがやってくる気配を感じた。
誰がやってくるかなんて、知っているけれど。

「よっ」

下から、目の前にひょっこり現れたのは、もちろんソニックだった。

「まったく、頑固なヤツだぜ」

どういう意味なんだろう、と一瞬考えて、すぐにわかった。
何度言っても聞かないボクを頑固といったのか。たしかに、そうかもしれない。

ごめんなさい。でも、今日は絶対来たかったんだ。
ボクは、ソニックにも、さっきまで僕が見ていた景色を見るように指示した。

「…なるほど、確かに気持ちはわかるな」


僕達がココから見下ろしている街は、輝いていた。
街はクリスマス一色だ。煌びやかな光を放つネオン、ライトアップされている大きなクリスマスツリー。
軽快なクリスマスソングは、ココまで聞こえてくる。もう夜も遅いのに、道を行きかう人は後を絶たない。


世界が、輝いていた。

「お」

小さくソニックが呟いた。なんだろうと思ったけれど、すぐにわかった。
空から、全く音を立てずに、白く小さな雪達が降りてきた。
ボクは落ちないように注意しながら、身を乗り出して降ってきた雪を手にとって見る。雪は、静かに消えていった。

光り輝く街へ向かって、雪達はゆっくり降っていく。
ボクとソニックは、しばらくその光景を黙って眺めていた。


「寒いな」

静寂を破ったのは、今のソニックの一言――ではなく、その前にした、ボクのくしゃみだった。
ボクは鼻をすすって、うん、と頷いた。

「そろそろ帰るか」

ボクは、ほんの少し間をおいてから、うん、と頷いた。名残惜しいと思った。

「またこの次、だな」

うん。

ボクは、頷いた。


「さ、帰るぜ。しっかりつかまってろよ」

ボクは、ソニックの背中にしっかり張り付いている。
振り落とされないように、その手に力を入れる。

「音速で行くぜ!」

ソニックはそういうと、いきなり飛び降りた。
ボクの体が上に引っ張られる。

わーわーと、悲鳴を上げるボクの顔は、笑っていたと思う。

この作品について
タイトル
~City Escape~ ―3rdMission―
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ 聖誕祭記念号