第九話 なげすてられる、そして

ここは、とある廃工場。
人が去り、何年も利用されていない工場だ。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
そこに、何故かチャオの叫び声が聞こえる。
「くっ……いつの間にこんなにまで強く……」
チャリンだった。
体の所々に傷がある。ひどくダメージを受けているようだ。
チャリンの前から、こちらに近づいてくる足音が聞こえる。
「おいおい、もうこれで終わりかよ?」
足音の主は、チャスケだった。
「つまんねぇなぁ。もっと強くないと張り合いが出ないぜ」
かも残念そうに、チャスケがつぶやく。
「くっ……」
チャリンがよろよろと立ち上がる。いつもの勢いはまるでない。
「まだ、終わりませんよ……」
辺りは、もう暗くなり始めていた。
「……さぁ、いきますよチャスケ!!」
「……ああ、来るなら来いよ。」
チャリンがチャスケに向かって走り出す。
「よっと」
しかし、チャスケに蹴り返されてしまう。
「がはあっ!」
勢いよく飛んでいくチャリン。
飛んだ先にはドラム缶が積み上げてあり、そこにチャリンは激突した。
盛大に崩れるドラム缶。
もう終わったと思ったチャスケは、その場を後にする。


「……まだ、終わりませんよ……」


そこには、廃パイプを杖代わりにして辛うじて立っているチャリンの姿があった。
「……往生際が悪いな……」
「チャスケが私に勝とうだなんて、100年、いや、十倍の1000年早いのですよ……!」
チャリンは廃パイプでバランスをとり、きっ、とチャスケの方を睨みつけた。
「……しょうがない、終わらせるか。」
チャスケもチャリンの方を向く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
両者共に走り出す。
「チャリンアタック!」
「真・チャスケ波動拳!」
拳と拳がぶつかり合った。
「くっ……」
「へっ……」
だが、チャリンよりも、チャスケの方が押し勝っている。
「……これで、終わりなんだぜ。」
チャリンの体をチャスケの蹴りが襲う!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
チャリンの体は高らかに円を描き飛んでいった。
チャスケは、振り向くこともせず去って行く。
そして、画面には「K.O」と表示されていた……


「あーまた負けてしまいました……」
ここは、チャリンたちが乗り込んだバス内。
朝の光が窓から差しこみ、嫌でも眠くなりそうだ。
現に、他の乗客たちのほとんどがうつらうつらしている。
「だろ?チャスケのちからってすげー!」
他の乗客が眠そうにしているというのに、このチャオたちは大声で話し続ける。
いつもならここでチャリンが「チャスケ!」と注意するはずだが、今はチャリンも興奮しているようで、普段の冷静さがまるでない。
「やっぱ真・チャスケ波動拳は強ええなぁ!」
「チャリンアタックは威力がちょっと弱めですかね……」
さっきからこのチャオたちが話していることは、ゲームのことである。
「出動!チャオキャプチャー!! サン・ブライト」
「出動!チャオキャプチャー!! ルナティック・シャドウ」
それがこのゲームの名前である。
チャオとチャオキャプチャーと呼ばれる人が力をあわせて任務をこなしていくというAVGである。
このゲームの対戦機能を使ってバスに乗ってからずっと対戦していたのである。(約15分)
今までで3試合ほどしたが、全てチャスケの圧勝であった。
「やっぱ俺強すぎだな!はっはっは!」
「現実ではいじられキャラのくせに……」
連勝を繰り返しているチャスケはさっきから調子に乗っている。それに比べて連敗を繰り返しているチャリンは不機嫌そうだ。
「黙れ現実を見てみろよチャリン」
「それはこっちのセリフです」
と、そこでチャスケの動きが止まった。
「……?。チャスケ、どうかしましたか?」
チャスケは前の座席をじっと見つめている。
「これは…!まさか、こんなところに……!」
チャスケは前の座席の前(ややこしや)に駆けていった。
「でさー、そこでサンが転んじゃってさー・・・」
「へぇ。そうだったんですか。・・・」
前に座っているチャオたちが楽しげに談笑している。
かなり和んだ空気である。
「くおぅらああああああああああ!お前らああああああ!!」
その和んだ空気をチャスケがぶち壊した。
チャスケが二匹のチャオたちの前に立つ。
「お、お前は・・・!」
「あ、あなたは・・・!」
二匹のチャオが驚いたようにチャスケを見る。
「チャスケじゃねえかああああ!!」
「チャスケさん、お久しぶりです。」
そう、この二匹のチャオたちはフィノとミクラである。
二匹とも、久々にチャスケに会ったことで喜んでいるようだ。
「よう!フィノ!」
「ご無沙汰していました。ミクラさん、こんにちは。」
「よう!チャスケ!」
「こんにちは。チャリンさん。」
いつの間にかチャリンもこちらに来て、互いに挨拶した。
周りの乗客はかなりの大声にかなり驚き、かなり困惑し、かなり迷惑している。
そんなこともお構いなしに、チャスケたちの会話は続く。
「いやーまさかこんなところで会うとはなー! ところでアクアたちはいないのか?」
「那月たちは学校の修学旅行に、アクアは買い物に、サンとムーンはサッカー観戦に行ったから暇な僕たちはチャオタワーでも見に行こうかという話になったんですよ」
「そうなのか」
「そうなのだ」

「ところでフィノー!」
「なんだチャスケー?」
チャスケが友好的な笑顔をフィノに向ける。
「死ねええええええええええええええええええ!!」
いきなりそう叫ぶとチャスケは高く跳び、フィノに向かってドロップキックを放つ。
まるで弾丸のような速さだが、チャオカラテ一段のチャスケの蹴りは七段のフィノに軽く避けられてしまう。
「はははかわすのなんて余裕だよ!!」
チャスケはそのまま床にぶつかり、鈍い音を立てた。
その音で近くで談笑していたチャリンとミクラも気づいたようだ。
「チャスケ……なにやってるんですか?」
「説明するのめんどくさい」
「しなさい」
「えーっ」
「できるだけ詳しく」
「ドロップキックした」
「はしょりすぎ」
「むぅ」
そう話し込んでいるうちに、余裕でかわしたフィノが来た。
「チャスケ、まだまだだな!!」
「手加減したまでよ!」
全く余裕ではなかったが余裕の笑みでチャスケが返答する。
「これからが本気だぜ!」
(…またやるんだ……)
フィノはそう思った。
(…迷惑です……)
ミクラはそう思った。
(…どうでもいいや……)
チャリンは特に何も思わなかった。

「いくぜ!」
チャスケが距離をとり、再び高く跳ぶ。
フィノも思わず身構える。
「ちゃすけきぃ~っくぅ~!」
あまりにやる気の無い技名(だろう)にフィノは脱力した。
それにさっきと速さも同じ。
「あらよっと」
フィノは先ほどと同じように高速で左に移動した。
チャスケの蹴りの先には何も無い。
誰もがかわしたと思った。

しかし、現実は違った。
「うわぁっ!」
チャスケの蹴りが、左にいたフィノに命中した。
勢いでフィノが飛ばされるが、すぐに体勢を整え、また元の場所に戻る。
「どうだ新技【チャスケキック】の威力は! 本で調べてゲームで磨いたこのチャスケ様にかかればフィノなんてちょろいもんだぜ!」
「名前だせぇ」
「…ダサいです」
「なんのひねりも無いな」
軽くスルーされたショックでチャスケがすこしのげそる。
「しかしどうしてあんなショボイキックが僕に当たったんだ?」
フィノが首(あるのか?)をかしげる。
同じように、ミクラとチャリンも首をかしげる。
「ふっふっふ…説明してやろう!!」
偉そうにチャスケが説明しだす。
「右の蹴りがかわされたらすかさず左の蹴りが襲う! これで100%命中するぜ!」
「なんかあっさりネタばらししてさらにそんなすごい仕組みでもありませんでした!」
「聞くだけ無駄だった気がする!」
「上二名に同意します!」
チャスケを除く三名はとてもがっかりしたようで、うなだれている。
「…でもすごいだろ! お前らにできるかよ!?」
「できます!」
「余裕!」
「簡単に出来ます!」
「ミクラまでっ!?」
チャスケは三人以上にとてもがっかりしたようで、三人以上にがっくりとうなだれた。
「くそぅ青い鳥文庫で発見して俺の手で磨き上げたこの技を馬鹿にされるとは…」
「なんかどっかで見たことあるようなやつだなって思ったらやっぱパクリだった!」
なんとも表現し難い険悪なムードが場を包む。
「というわけで、ね」
チャリンがくるりとチャスケとフィノの方を向く。
「あなたたちはどれだけ人に迷惑をかけたと思っているんですか?」
自分のしたことは思いっきり棚に上げてチャリンが笑顔で問い詰める。
笑顔だかなぜか恐怖を感じるチャスケとフィノ。
「え…いや、その……」
「あ…あの、その……」
思わず後ろに一歩下がる。
「あなたたちの行為でどれだけの人が嫌な気分になったと思っているんですか?」
てめぇも大声でゲームしてただろと二人は思ったが口には出せなかった。
「なのでですね……」
チャリンがチャスケとフィノのポヨを掴む。
「てめぇら反省してこいっ!!」
チャリンが野球の投球の要領で開いていた窓に向かってチャスケとフィノを投げ飛ばす。
「え……」
「ちょ……」
二人が自分が投げ飛ばされているということとチャリンの腕の長さが矛盾していることに気づくのに数秒かかった。
『うわああああああああああ!!』
チャスケたちは叫び声を上げながらバスの窓から投げ飛ばされていった。


「さて…」
チャリンが手をはらう。
「これで平穏が戻りましたね!」
チャリンがミクラの方を向く。
ミクラの顔は恐怖で引きつっていた。
「あれ? どうしましたか?」
「いや…何も……」
ミクラはチャリンに笑顔を向ける。引きつってないか心配だった。
「まぁそれならいいんですけどねっ」
チャリンが運転席の方を見る。
ミクラはほっとため息をついた。
「ところでミクラさん?」
チャリンが不意にこちらを向いた。
「は、はいぃっ!?」
ミクラはかなり驚いて返事をした。
そしてハッと気づいた。大変だ。死ぬかもしれない。
「おや? どうしたのですか?」
チャリンが首を傾げる。
良かった。気にしてないみたいだ。
ミクラは心の中でほっとため息をついた。
「いえ、なんでも……」
「ならいいんですけどね」
チャリンはミクラの方に一歩近づく。
ミクラは驚き一歩下がる。
「な、なんですか…?」
「聞きたい事があるんですが……」
チャリンがそっと口を開いた。
「あなたは、ミトラさんの事を知っていますか?」

このページについて
作者
じぃざむらい
掲載日
2010年8月21日
ページ番号
17 / 18
この作品について
タイトル
チャオタワー建設途中
初回掲載
2010年2月4日
最終掲載
2010年8月22日
連載期間
約6ヵ月19日