第八話 ほったよしろうとかとうさきおとにひきのチャオ

「ふぅ……」
タクシー運転手——堀田善郎(62)は、車内で煙草をふかしていた。
こだわりのブランド「jizamu-sigaretto」だ。
堀田は元々FBIで活動していたが嫌気を感じ、ここ日本でタクシー運転手を営んでいる。
しかし、マイカーをほとんどの家庭が所持している現代は、タクシーに乗る客が少ない。
ましてや、ワンコインタクシーが流行っている時代に初期料金510円の堀田のタクシーなど、誰が乗るというのだ。
だが、堀田はこの職をやめようとしない。
贔屓にしてもらっているお客の話が、いつも実に興味深いからだ。
「ところで、運転手さんの耳に入れておきたい話があるんですが……」
いつもこのフレーズで始まるある客の話は、ほぼ100%堀田の興味深い話題だった。
しかし、なぜこんな私の興味深い内容ばかり話せるのか。と考えることもあったが、個人のことをそんなに詮索するのはよくないと考えるのをやめている。
今、堀田は煙草をふかしながら、「なぜ人はあのように急ぎ足なのか?」ということを悶々と考えていた。
ふと、考えている途中で青色と白色のコドモチャオが、タクシーの横を通り過ぎた。
白色のチャオを見たとき、堀田の体に衝撃が走った。

あのチャオは、完全白ピュアだ。

こんな珍しいチャオを見ることができて、運がいいなと堀田は顔を綻ばせた。
しかし、その近くで歩いていた人物を見て、堀田の表情が固まった。
その人物は、現在指名手配中の加藤崎男だったのだ。
加藤は数年前、街を歩いていたルビーチャオを誘拐しようとしたところを通報されたが、加藤は逃げ、行方をくらましていたのだ。
事件が起こる。
堀田は確信した。
理屈じゃない、本能だ。
二匹のチャオに目を戻す。
二匹のチャオは、堀田のタクシーの前にあるバス停に停まっていたバスに乗った。
加藤の方も、同じバスに乗ろうとしている。
これは、追わなければならない。
「あのー、乗せてもらえませんか?」
客が来たようだ。
「……ああ、予約しているお客さんがいるんです。すみません。」
堀田は断った。
お客より今は大変な状況なのだ。
目の前のバスが発車した。
堀田は、そのバスを追うように、タクシーを発車させた。

このページについて
作者
じぃざむらい
掲載日
2010年3月26日
ページ番号
15 / 18
この作品について
タイトル
チャオタワー建設途中
初回掲載
2010年2月4日
最終掲載
2010年8月22日
連載期間
約6ヵ月19日