「ENDING OF CHAOS PLOT」

チャオスは世の中から消えた。
平和である。
世界に春が来て、今は夏である。
その裏で人間が不死身になる可能性も消えたのだが、それを知る人間は少ない。
それを知っている数少ない人間の一部である橋本進とオルガはチャオガーデンを経営していた。
チャオスが消えたことでチャオはペットとしての地位を取り戻した。
とはいえ人々の不安が解消されたわけではない。
昔ほどチャオを慕う人は多くない。
2人はチャオの布教をしたりして過ごしている。
成果は少し出ている。
好奇心旺盛な子どもや元々チャオを非常に好んでいた人々が少しずつ寄ってくるようになった。
スタッフルームでのんびり休憩していた橋本のところにオルガがやって来た。
「進」
「ん、どうした」
「チャオをいじめてる子がいるからカオスになってとっちめて」
「無理だからそれ」
変身することはもうできない。
オルガもそうだ。
もはや彼女は人間なのだ。
ただ、名残として紫色の髪が残っている。
「っていうか、見つけたならお前がやればいいだろうに」
「いや、さ」
「ん?」
「前にやったらその子どもが怯えて近寄らなくなった」
「……」
人付き合いが下手なのも彼女の生まれの名残かもしれない。
まだ木の実を食べたりすることがあるのも少し問題だ。
これからちゃんとした人間として生きれるようになればいいと思う。
「そして私は悲しみを背負った」
「そうですか」
「私を悲しみから守るのが守護神である君の役目」
「……そうですか」
人を守るというのは大変だ。
ただその人を守ればいいという問題ではない。
チャオをしっかり育てたり、望まない傷を生まないようにフォローしたり。
時には、その人を傷つけなければならない。
過去に彼が彼女から腕を奪う必要があったように。
そうやって守るのは、相手の心だ。
「では手本を見せてやろう」
「うん」
チャオガーデンに2人は入る。
「どこにいる」
「あそこ」
オルガが指差した先には確かに子どもとポヨを渦巻かせているチャオがいた。
橋本は近寄る。
オルガは彼の少し後ろをついていく。
「ヘイ、ボーイ。なぜいじめているのかね」
そう声をかけると少年はストレスの溜まった声で言った。
「こいつがこの木の実食わないんだよ」
この木の実。
そう言った少年が持っていたのは四角い木の実だ。
四角い木の実がなる木はこのガーデンにない。
おそらくチャオにあげるために買ってきたのだ。
なるほど、と思う。
実は少年の前にいるチャオはその木の実が嫌いなのだ。
当然、チャオは食わない。
当然、わざわざ木の実を買ってきた少年は怒りを覚える。
そこで橋本は丸い木の実を少年に渡した。
「これをあげてみるんだ」
「え、でも」
「いいから」
しぶしぶ少年が泣いているチャオに木の実を渡す。
すると今度は渦巻状だった物をハートマークにして、凄い勢いで食べ始めた。
「こいつは丸い木の実が好きなんだ」
「そうなんだ」
「で、君の持っている木の実は、あそこのチャオ……あの赤いチャオの好物だ。食べさせてやってくれるか」
「……ん」
割と素直だった。
なかなかいい子ではないかと橋本は思う。
「グッドジョブ」
オルガが後ろで親指を立てていた。
「ああ」
「ねえ、今日はもう切り上げてこれから買い物行かない?」
「今からか?」
時間を見る。
4時。
チャオガーデンを放置しても困ることはないのだ。
彼らで飼っているチャオがいるにはいるが、それよりも飼い主がそれぞれ連れてきたチャオの方が多い。
他のスタッフも一応いるし、良識のある人間が多いから問題はない。
仕事を放置するという罪悪感をどう見るか、という点だけだ。
「まあ、いいか」
たまにはそういうことをしてもいいと彼は思った。
「しかしこんな時間だぞ。いいのか?」
「大丈夫。まだ夜まで時間は結構あるから」
「……それもそうか」
2人は出かける。
今は夏。
日はまだ沈まない。
世界は結構明るいのだ。

このページについて
掲載日
2010年7月17日
ページ番号
75 / 75
この作品について
タイトル
CHAOS PLOT
作者
スマッシュ
初回掲載
2009年11月3日
最終掲載
2010年7月17日
連載期間
約8ヵ月14日