第2章 1話 この時代に生まれたソニック
ヒドゥンは疑似エメラルドが白煙となって消えていくのを見ていた。
バードのリーダーがカオシング現象を起こした時に、ヒドゥンの想定以上に消耗した様子だった。
ヒドゥンのロボットが起こしたカオシング現象は不完全なものだった。
「後始末をしておいた方がよさそうだな」
気になるのは、遠くにいたチャオの飼い主たちだ。
それにチャオも数匹、ロボットから離れていたために、まだ生きているかもしれない。
巨大な手を足代わりに、倒れている飼い主たちに近付こうと一歩前に出た。
ロボットの手で殺すつもりだ。
ヒドゥンは疑似エメラルドをもう一つ所持していたが、そちらも既に一回カオシング現象を起こしていて、ここでもう一度カオシング現象を起こして失いたくはなかった。
そのタイミングで、何者かの攻撃を受けた。
重い弾丸を一発撃ち込まれたような衝撃で、機体がよろめいた。
さらにもう一発、機体の腹に攻撃を受ける。
ヒドゥンはロボットの腹部に、若い男が蹴りを入れたところを見た。
人間の力とは思えない威力であった。
攻撃から逃れるために、ロボットは飛ぶ。
しかし男はロボットの頭部に飛び乗った。
「お前、一体!?」
「俺はこの時代に生まれたソニック・ザ・ヘッジホッグ、ドクター・ニック。ドニックと呼んでくれ」
男は言い終えると、かかと落としをした。
「ドクター・ニック……ニック・ガジェットか、貴様!」
「だからドニックって呼べっての」
さらにもう一人が、上空から急降下してロボットの頭部を壊した。
それは、水色がかった白い髪の女だった。
髪の先だけが金髪で、目つきが悪い。
「ジンカ・チェイス、華麗に見参ってカンジ?」
「さあ、疑似エメラルドをもらうぜ」
ニックがそう言うと、ジンカがコクピットに入り込もうとした。
「そうはさせるか!」
ヒドゥンはなにか機械を操作すると、疑似エメラルドが光る。
「カオスコントロール!」
ジンカは阻止するために、光った疑似エメラルドに手を伸ばす。
そして機械からもぎ取った。
直後、ヒドゥンはロボットごと消えた。
しかし疑似エメラルドはジンカの手に残っていた。
ニックはそれを受け取る。
「だいぶ小さくなってしまったが、まあいいだろう。生き残りがいないか、探してくれ」
ジンカはうなずき、空を飛んだ。
レッシは目を覚ました。
心地よい夢を見ていたような気がした。
「やっと起きた」
女の声がした。
明るいところで眠っていたようだ。
まぶしくて、よく見えない。
目が慣れてくると、ここがチャオガーデンであることと、すぐ近くに変わった髪の色の女がいることがわかった。
「なんで俺はチャオガーデンに寝ているんだ?」
「ここ、廃墟っていうか、使われてないっぽいんだよね。だから勝手にお邪魔してる」
「君は?」
「私は美しく強い刃、ジンカ・チェイス」
「そうか……。俺は静かなる溶岩、レッシ・ラッシュだ」
適当に言ったがジンカは、
「へえ。静かなる溶岩。いいね」
と感心した様子だった。
「ところで俺の相棒がどこにいるか知らないか? ダークハシリチャオで、ラジカルって名前だ」
するとジンカはレッシを指した。
「は?」
「ラジカルは君の中に」
「ああ、うん。そうだな。それで本当はどこなんだ?」
レッシは周囲を見るが、ラジカルは見当たらない。
このチャオガーデンにはチャオ自体がいなかった。
「君の中に」
もう一度ジンカは言った。
「そうか、死んだのか」
カオシング現象のせいで。
こういう別れは覚悟していた。
だからすぐに死を認めることができた。
「そうじゃなくて」
「は?」
「私たちが来た時、ラジカルは生きていた。だけど助かりそうになかった。だから博士が君にラジカルを移植した。だからラジカルは君の中にいる」
「待った待った。移植ってなんだよ」
「とにかく君とラジカルは一体になったんだよ」
そう言われても、自分とラジカルの身に起きたのか理解できない。
ジンカもそれ以上の説明ができず、もどかしそうにする。
そこへ、チャオガーデンの岩場にある洞窟から男が出てきた。
「私が説明しよう!」
男はレッシたちからかなり離れた所にいたが、ひとっ飛びするだけで近くに着地した。
また変な人間が出てきた、とレッシは思った。
「私はドクター・ニック。私のことは、かのソニックのようにドニックと呼んでくれ」
「それで、俺の身になにが起きたって言うんですか、ドクター」
「……」
ニックは喋らない。
「……なにが起きたって言うんですか、ドニック」
「うむ。教えてあげちゃおう!」