チャオの森 その前のお話
人里離れた山の中に、チャオたちの暮らす森があります。
ご主人さまとお別れしたチャオたちが、幸せに暮らしている森です。
今日は、あるチャオが、この森にくる前のお話をしてみましょう。
それは、歌のとってもじょうずなヒーローチャオのお話です。
ヒーローチャオは、あの日までとっても幸せでした。
ご主人さまは、とってもやさしくて、いっしょにいるだけで心が休まりました。
ときどき、お仕事で帰りが遅くなることもありましたが、そんなときは、いつも以上に可愛がってくれるので、帰りを待っているあいだの寂しさも、すぐに吹っ飛んでしまいました。
いつもそばにいる、それが自然なことでした。
こんな暮らしがいつまでも続くと、ヒーローチャオは思っていました。
きっと、ご主人さまもそう思っていたことでしょう。
ご主人さまには、ヒーローチャオといっしょに暮らす前から付き合っている恋人がいました。
恋人といっしょにいるときのご主人さまは、とっても幸せそうでした。
ヒーローチャオといっしょにいるときのご主人さまも幸せそうでしたけど、恋人といっしょのときのほうが、もうちょっとだけ幸せそうに見えて、ヒーローチャオは、ちょっぴりヤキモチをやいてしまうこともありました。
でも、幸せそうなご主人さまを見ていると、ヒーローチャオも幸せな気分になりました。
それに、ご主人さまの恋人もやさしくて、ヒーローチャオはこの二人が大好きでした。
そんなある日のことでした。
ご主人さまの恋人が、お仕事で遠くの国に行かなければならなくなったのです。
いつ帰ってこれるかも分からない長い間行かなければいけないのでした。
だから、ご主人さまの恋人は、ご主人さまにいっしょに来てほしいと言いました。
ご主人さまもいっしょに行きたいと思いました。
でも、ひとつだけ問題がありました。
その国は、チャオが暮らしていけるような環境ではなかったのです。
ご主人さまは悩みました。
恋人といっしょに暮らしたい。
でも、ヒーローチャオを置いてはいけない。
どうしたらいいんだろう?
答えは、すぐには出ませんでした。
何日も何日もご主人さまは悩み続けました。
ヒーローチャオは、そんなご主人さまを見ているのが辛くてなりませんでした。
でも、自分には何もしてあげられないことも分かっていました。
ただ、そばにいることしかできませんでした。
あれから何日もたったある日、ご主人さまはヒーローチャオに言いました。
「やっぱり『ほのか』を置いていくことはできない。あの人と離れるのは辛いけど、もう二度と会えないわけじゃない。いつになるか分からないけど、あの人がこっちに戻ってきてからでもいっしょに暮らせるから。でも、今『ほのか』と別れると、もう二度と会えないような気がするの」
ヒーローチャオは、ご主人さまの言葉を聞いて、とっても嬉しくなりました。
でも、話しているときのご主人さまの目が、とっても悲しそうだったことが気になって仕方ありませんでした。
だから、ヒーローチャオは決めました。
ご主人さまとお別れすることを。
とっても辛くて悲しい決意ですけれど、それでご主人さまが幸せになれるのならいいと思いました。
ご主人さまが幸せなら、ヒーローチャオも幸せになれるのです。
たとえ、いっしょにいることができないとしても・・・。
その日、お仕事に出かけるご主人さまに手を振りながら、ヒーローチャオはご主人さまの顔を目に焼きつけました、目をつむれば、いつでもご主人さまに会えるように。
そして、黙っていなくなることへのごめんなさいと、今までありがとうの思いを込めて、ひとつの絵を書き残しておきました。
ご主人さまとヒーローチャオの笑顔の絵です。
やさしいご主人さまだから、ヒーローチャオがいなくなったら、きっと悲しむことでしょう。
この絵を見たら、少しはそんな気持ちもまぎれるかしら?
そんな思いを込めました。
でも、それ以上に、自分のことを忘れないでいて欲しいという思いを込めたのです。
自分で決めたこととはいえ、やっぱりご主人さまとお別れしたくなかったのです。
そんな思いを振り切って、ヒーローチャオは旅立ちました。
これで、ご主人さまが幸せになれると、そう信じて・・・。
そして、導かれるようにして、ヒーローチャオはチャオの森に辿り着きました。
この森で、ヒーローチャオは、いろんなチャオたちとともだちになりました。
みんなやさしくて、楽しくて、すてきなともだちです。
ときどき、ご主人さまのことを思い出すこともあるけれど、ヒーローチャオはこの森で幸せに暮らしています。
もしも、ご主人さまと再会することがあったら、きっとヒーローチャオはご主人さまにこう言うでしょう。
「わたしは、この森で幸せになりました。
でも、ご主人さまに会えてとっても嬉しいです」
おわり