最終章第五話 ハイパー化の代償
ハイパー化した二人のチャオは、宇宙空間に飛び立ちます。
地球を守る、最後の闘いのために。
この宇宙空間でハイパー化を維持する為には、リングが必要です。
それは今回のお散歩で手に入れたリングです。
ギャリック砲の砲身にしがみつき、チャークを地上へ引っ張る究極生命体プロトタイプのサウリア。
その体には、七つの腫れ物があります。
「チャニック、ボクのチャドースピアで貫いた傷跡を狙うちゃお!
七つの腫れ物を潰せば、ヤツもチカラ尽きるちゃお!」
「二人とも聞こえるちゃお?」
チャークの外部スピーカーから、チャミーの声が聞こえます。
「地上のヒト達もみんな、二人を見ているちゃお。
あなた達はみんなの最後の希望ちゃお!がんばってちゃお!!」
壮絶な戦いが始まった。
砲身にしがみつき、あまり動けないサウリアも、レーザー光線を出して、激しく応戦する。
三分後、サウリアの腫れ物は残り二つ。
しかし、サウリアの命を振り絞った抗戦は、激しさを増していく。
「二人とも!大気圏突入まで、あと二分を切ったちゃお!急ぐちゃお!」
チャーク内からチャイルスが叫ぶ。
とはいっても、二人はサウリアの攻撃の激しさに、攻めあぐねている。
徐々に残りのリングも少なくなっている。
このままでは、大気圏突入前にリングが尽きる。
「チャニック!ボクのリングを使うちゃお!ボクは、チャークからリングを集めてくるちゃお!」
チャドーから、リングを受け取るチャニック。二人のリングを合わせると、相乗効果により、ハイパー化の効力が倍増されます。
しかし、サウリアはチャニック一人で戦える相手では、ありません。
「チャドー、いそいでくれちゃお!」
チャドーはチャニックの言葉にうなずき、チャークに戻ってきた。
「くう…!、どうやら、ボクの体にこのハイパー化は、無理があったようちゃお。」
チャークに戻るや、チャドーは方膝をついた。
しかし、すぐに立ち上がります。
「そんな体で、どこ行くちゃお?」
チャドーの後ろから、声がします。
振り返ると、ルーチャが立っています。
「今、貴様としゃべってる時間はないちゃお。」
チャドーは歩き出します。
「リングを集めに来たんちゃお?リングなら、ここにあるちゃお。」
チャドーは立ち止まります。
ルーチャの手には、リングが握られています。
それは今回のお散歩で、ルーチャが、チャッグマンが、チャイルスが、チャックルズが集めたリングです。
「あ、ありがたいちゃお。」
チャドーはそのリングに手を伸ばします。
しかしルーチャは、リングを持った手を上にあげます。
「あんたには、あげられないちゃお。」
「な、何を言うちゃお?」
チャドーはあっけにとられます。
「このままでは、みんなお陀仏ちゃお!早くよこすちゃお!」
チャドーはジャンプしてリングを奪おうとしますが、ルーチャはうまくかわします。
「だったら、あんたはどうなるちゃお!」
ルーチャの言葉に、チャドーは黙ります。
「このままハイパー化を続けると、あんたの肉体は、消滅しちゃうちゃお!」
それは、チャドーが一番解かっていることだった。
『ALife』の名を冠するチャオにのみ許されたハイパー化という行為。
しかし、ボクは…。
ルーチャの言葉に、これまでのルーチャとの思い出が、なぜかよみがえります。
チャッグマンとチャドーの前に現れたルーチャ。
究極生命体の研究報告書をチャドーに見せるルーチャ。
監獄島のセキュリティホールに閉じ込められたルーチャ。
そして、人工カオスを前にしてあきらめかけた自分を励ますルーチャ。
その思い出が、マリアの面影とふと重なる。
自分にやさしく接してくれたマリア。
チャドーにとって『やさしさ』という感情は、マリアとの思い出に直結します。
チャドーの生まれてきた理由。そして、チャドーがここに居る理由。
ルーチャの言葉は、チャドーにその事を思い出させてくれた。
「やさしいんちゃおな、お前。」
「え?」
チャドーの意外な言葉に、ルーチャの緊張が緩みます。
そのスキに、チャドーはリングを奪い取ります。
「あ、チャドー!」
チャドーは走り出します。
その後姿に、なぜか不安を覚える。
「待って、チャドー。」
もう、チャドーを止められないと思ったルーチャは、凛とした静かな声で呼び止めます。
チャドーはたちどまります。
「チャドー、絶対生きて帰ってちゃお。」
チャドーは、にやりと笑います。
「ボクは、誰も死なせやしないちゃお。」
そう言ってチャドーは駆け出します。
「チャドー!あんたは、あんたはどうなのちゃおよ~!」
ルーチャは叫びます。しかし、チャドーは振り返ることなく、駆け抜けます。