そんなにブロッコリーのことが嫌いなら殺せ

条件にはギリギリ適っていると思います。
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そんなにブロッコリーのことが嫌いなら殺せ


ちゃおー。ちゃおちゃおー。
ねえ、ゆーたん。またぼくのだいすきなシチューに、ぼくのだいっきらいなブロッコリーが入ってるよ。ねえ、このまえいったじゃん。だいすきなシチューにだいっっきらいなブロッッコリーいれないでっっていっったじゃん。
--うーるさいわね、そんなにブロッコリーのことが嫌いなら、殺しなさい!
えっ、そこまで、しなくたっていいじゃん。きらいだから殺すなんて、おっかし~よ!
--おかしくないわよ。好きだから殺すのよりはおかしくないわよ。
すきだから殺すののつぎに、おっかし~よ。
--うーるさいわねー!ぐずぐず言ってないで、さっさと殺ってきなさい!
だって、ブロッコリーの殺し方なんて、わっかんないよ。
--ブロッコリーは包丁で切るものよ。そんなことも知らないなんていったい幼稚園で何を教わっているの。
ふりふりダンスとかだよお。包丁なんて、ぼく、もってない、し。
--幼稚園でもらった、算数セットのなかに入ってるでしょう。
うへえ、ほんとにあったぁ。
--きょうは、ステーションスクエア中のブロッコリーを殲滅するまで、帰ってくるんじゃありません。もちろんAランククリア以外は認めないからね。
ちぇっ、いってきまあす。
--待ちなさい、きょうは雨が降るそうだから、折り畳み傘を持って行くのよ。風邪引かないようにね。気をつけてね。
うん。ゆーたんはやさしいなあ。


うーん、こまった。
こまっちゃっちゃお~。
ぼくブロッコリーをみるのもさわるのもいやだいやだ、なのに、
わざわざ殺しにいくのなんて、もっといやだ~。
なんとかごまかして、ステーションスクエア中のブロッコリーを殲滅したことに、できないかなあ。
でもゆーたん、MIT出身の人間だから、ごまかすのってとってもむずかしいぞう。
どないしょ?
あっ、ちょうどいいところに、おじーさん。紙袋かぶったへんなおじーさんだ。
紙袋かぶったへんなおじーさん、こんにちは。きょうもおしりをふりふりしながら終末論を説法してまわっているんだね。
紙袋かぶっておしりをふりふりしながら終末論を説法してまわっているおじーさんにごそうだんしたいことがあるんだけれど、いいかな。
ええと、ゆーたんに、このまちのブロッコリーは全滅したものとおもいこませたいんだけれど、どないしょ?
いまつかえる装備はぁ、算数セットにはいってた包丁とぉ、折り畳み傘とぉ、さっき拾った"変身"(フランツ・カフカ)の一節が印字された赤福の空箱だよぉ。
これで、なんとかしなきゃだめなの。ばんごはんまでになんとかしなっきゃあ、ぼくかわいそう。
ね?
あっ、おしりふりふりしながらむししないでよお。そのままいこうとしないでよお。
このぼくと、世界の終末と、どっちがだいじだってのさ。
ねえどっちがだいじだってのさ。
ねえ。
きいてんのか。
このクズ。
どうしようもないクズ!!
このブロッコリー以下のクズめが!!!!!
・・・・・・うん。
ぼくだよね。そうだよね。はなしのわかるやつだ、きみは。
もっとおはなしきいて。ゆーたんはMIT出身だからごまかすのがむずかしいの。
だから、MIT出身じゃなかったら、ごまかすのかんたんだとおもうけど、
じっさいのところMIT出身であるというじじつはどうしようもないから、むずかしいの。
えっ、どうしようもあるの?さっすが紙袋かぶって(中略)へんなおじーさん。
それで、どうすればいいの?
ゆーたんをチャオにしちゃうの?なんで?
えっ、チャオになったら、MIT出身であることをわすれちゃうの?
うわあ、そりゃあ、べんりだね。
あっ、でも、ぼくのことはわすれたりしないよね?ぼくゆーたんだいすきだから、わすれられたらかなしいな。
えっ、へいきなんだ。MIT出身であることだけをわすれるんだ。ごつごうしゅぎだね。
へえ、この世のチャオは、もともとはみんなMITかジャニーズのどちらかの出身の人間が変身したものなんだ。
それは初耳だなあ。ぼくはどっちかな。どきどき。
ふむふむ、つまり、これまでのおはなしを総合すると、
人類はすべて、おとこのこはジャニーズ、おんなのこはMITで生産されるんだけれど、
なんらかの事情でそのことを忘却する必要が生じたとき、ある一定のメソッドを用いてその人間はチャオにされる。
そしてチャオとしての平和で怠惰でなんの苦悩もない天国のような暮らしに嫌気がさすようになったら、そのチャオは人間に戻される訳だけれど、
MITやジャニーズの出身であるという記憶は戻らない。
つまり人類は大まかに以下の3パターンに分類されるんだね。

A.MITあるいはジャニーズ出身の人間
B.Aであったことを忘れ、チャオになっている人間(このときに性別を失う)
C.Bであることに嫌気がさし、チャオをやめた人間(=MITあるいはジャニーズ出身ではない、と思っている人間)

ところでCの人間に、AやBであったころの、MITやジャニーズやチャオに関する部分以外の記憶は残っているの?
Cになったときに、Aのときのパーソナリティは復元されるの?
それはよくわからないって?
え~、それってちょっと、どうかなあ。
けっきょく、ゆーたんがチャオいや~になったとき、ぼくのことわすれちゃうんじゃない?
でも、ゆーたんをチャオにするのは、やめないどこ。
だって、ばんごはんまでおうちにかえれなかったら、ぼくやだもん。
ばんごはんは、たぶん、赤福だもん。
ぼく赤福だいだいだーいすき。
なにがすきって、ブロッコリーが介入する余地がない点かな。
そういうわけだから、ゆーたんをチャオにするある一定のメソッドとやらを、おしえてよ。
なになに、まず、"変身"(フランツ・カフカ)の一節が印字された赤福の空箱をようい。
赤福の箱は、何個入りのやつでもいいの?いいんだ。じゃあ、よういできたよ。
つぎに、箱をアスファルトのうえにおいて、雨にぬれないよう折り畳み傘で覆います。
オッケー。できたよ。つぎは?
街中のブロッコリーを殲滅します。
えーっ!? それがいやだから、やってるのに。ねえねえ、ほかになにかほうほうはないの?
え、ブロッコリーじゃなくて、ニンジンでもいいの?
オッケー。できたよ。
ニンジンの断末魔って、カカロットオオオオオ!じゃないんだね。べんきょうになったよ。
それで、つぎは?
えっ、もうおしまい?これでおわり?
これで、ゆーたん、チャオになってるの?
へえ、すっごいなあ。おうちかえってみてくるね。
前略へんなおじーさん、物理的なお礼は特にしないけれど、ありがとう。
るんたったるんたった。


たーだいまあ、あれっ、ゆーたんは?
--ここよ。
えっ、きみがゆーたん?
うわっ、ほんとうに、チャオになってる。
--へんなこといわないでよ、わたしはまえからチャオでしょう。
ふーん、そういうカンジなのかあ。
ねっ、きょうのばんごはん、赤福なんでしょう。
--よくしってるわね。
だって、そとに、"変身"(フランツ・カフカ)の一節が印字された赤福の空箱がおちていたんだもの。
"変身"(フランツ・カフカ)の一節が印字された箱に入った赤福をちゅうもんするなんて、ゆーたんぐらいでしょ。
--やだ、みあたらないとおもったら、そとにポイすてしちゃってたのね。はずかしいわ。
 そういえば、ブロッコリーの殲滅はすんだの?
ブロッコリー?ちがうよ、ゆーたんはニンジンを殲滅してこいっていったんだよ。
--あらやだ、MIT出身じゃないから、まちがえちゃったわ。
 ところで、きょうの赤福は、趣向を凝らしてブロッコリーをいれてみたの。
うへえ、ゆーたん、さいあくだよ!
いままでのぼくのどりょくはなんだったのさ。
--うーるさいわね、そんなにブロッコリーのことがきらいなら、殺しなさい!
えっ、そこまで、しなくたっていいじゃん。きらいだから殺すなんて、おっかし~よ!
--おかしくないわよ。すきだから殺すのよりはおかしくないわよ。
すきだから殺すののつぎに、おっかし~よ。ニンジンはすきだから殺したけど。
--うーるさいわねー!ぐずぐずいってないで、さっさと殺ってきなさい!
わかったよ。算数セットのなかにはいってた包丁で殺ってくるよ。
--なにいってるの、ブロッコリーはキャプチャするものよ。そんなこともしらないなんていったい幼稚園でなにをおそわっているの。
えっ、ゆうたんにおそわったんだよお。
--わたしがそんな頓珍漢なことおしえるわけないわ。あらかた、紙袋かぶっておしりをふりふりしながら終末論を説法してまわっているおじーさんにふきこまれたのでしょう。チャオとしての平和で怠惰でなんの苦悩もない天国のような暮らしにズブズブ浸かって転生を繰り返すとああなってしまうのよ。きをつけてね。
うん、わかったよ。ゆーたんはやさしいなあ。


それを聞いたとき、ぼくは、心の奥に生じた一抹の不安を無視出来ないでいた。
このままゆーたんと、チャオとしての平和で怠惰でなんの苦悩もない天国のような暮らしに甘んじていれば、
いずれああなってしまうのか。
しかし、人間に戻る決意をすれば、ゆーたんはぼくを忘れてしまうかもしれないし、ぼくはゆーたんを忘れてしまうかもしれない。
でも・・・ぼくは、まあなんでもいいや、とおもった。
だってきっと、チャオでも、人間でも、お互いを忘れてしまったとしても、
ゆーたんはやさしいし、
ぼくのブロッコリーぎらいは治らないのだから。


MEDETASHI☆MEDETASHI

この作品について
タイトル
そんなにブロッコリーのことが嫌いなら殺せ
作者
ぺっく・ぴーす
初回掲載
2013年12月23日