―ボウケン―

冒険。小さい頃から、僕は…その言葉に、わくわくするような冒険そのものに、憧れ続けて来た。
実家が本屋ということもあって、冒険小説を読み漁り、ファンタジーな世界への、強い羨望がある。
…知識も。



―ボウケン―



最初に、僕が行った冒険は、言わずと知れた本の中。
何かの賞品で手に入れたと、本屋の店長、兼、叔父さんは語る。

 「―これって、チャオの絵本じゃあ…?」
 「そうみたいだね。でもね、その本にはとある魔法がかけてあるんだ。」

その時は、疑って適わなかった。でも、その瞬間から、僕は違う世界にいたんだ。
…本の、世界。

気が付けば―そう、僕が読んだ本の中でも、こんな状況があった。
気が付けば異世界。そして、そこで冒険して、帰還する。そんな冒険が。
と言う事は、ここでは僕は”勇者”なのだ。

でも、僕は信じない。だって、簡単に信じたら、そうではなかった時の落胆が酷いから。
それに、今までだって一度も、こんな経験、無かったんだ。早々に信じられる訳が無い。

僕の思いを裏切る―本当は、裏切る、何かじゃ、無い。
裏付ける証拠が、目の前にあった。

 「こんにちは。」

チャオ、だ。チャオは、僕が元居た世界では、当たり前のように存在する。
けども、ステーションスクエアにいた僕では、当たり前だが、見かける事が無い。
目の前に居るのは、そのチャオ。神秘の生物。

 「こん…にちは。えっと、ここはどこですか?」
 「何と言えば理解してくれるかな…。ここは、君の世界だよ。」
 「僕の?」

理解できなかった。そのチャオもまた、頷いた。
僕の世界。…どういう意味だろう。黄色い「ポヨ」を「?」にして、そのチャオは言った。

 「何で分からないの?」
 「何でって…。」
 「君の世界。君が「冒険がしたい」と願ったから、この世界が生まれたんじゃないか。」
 「僕が…願ったから?」
 「そう。」

水色のチャオは頷いた。
僕が願ったから、世界は生まれた。冒険の世界が。

 「それじゃあ、もう、君は大丈夫だね。」
 「えっ…?」
 「冒険。頑張って。」
 「冒険って…うわぁっ!」

あっという間だった。僕はさっき居た本屋に立っており、叔父さんはお客の相手をしている。

…夢だったのかな。
…夢じゃ、ないよ。

そう言ったのが、聞こえた。
これは、幼い頃の、冒険の序章。
水色の彼に、僕が気付かされたんだ。

―冒険は、身近なところにあるって。

~fin~

この作品について
タイトル
―ボウケン―
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第229号