ありがとう

 ぱちん

 明かりのスイッチを入れた。

 2、3度の明滅、蛍光灯の白い光が玄関を照らして、
 開け放したままの玄関から漏れる冷気と、僕らを照らし出す。

「ただいま、今日も寒かったね、早く中に入ろう」
 
 白い息と共に吐く言葉、誰もいない部屋への言葉と、後ろの子へ言った言葉。

 ぱたん

 靴を脱いで部屋に入って、扉を閉めて。

「うぅ…… 寒い、やっぱりストーブつけとけば良かったかな?
 でも、あぶないしね」

 言って、手をさすりながらストーブの前にしゃがみ込んで、
 隣で同じ様にしている君を見て。

「こうしたほうが暖かいかな?」

 君を抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめて。
 何とも言えない、柔らかくて暖かい感触……



「あぁ、折角買ってきたのがぬるくなっちゃうね」
 
 どれくらいそうしていたか、部屋ごさっきより少し温かくなっていた。
 君を放して、足元でちょこちょこしている君。

「ありがとう」

 そう言って一緒に歩く僕。

 狭い部屋の小さなテーブル、
 ひっくり返したコップを二つ、向かい合う様並べて、フォークを添えて。

 買い物袋から、少しぬるくなったジュースを出して。

「やっぱりぬるくなっちゃったよ」

 そう言って笑いかけ、赤と緑の四角い箱、テーブルの真中にちょんと置き。
 君を呼んで、僕もテーブルの反対側に座って、コップにジュースを注いで。

「まずは、乾杯。おめでとう」

 チンッ

 コップが触れ合う音、安いガラスのなる音。
 コップの中身を一口飲んで、君が美味しそうに一息にあおって。

 お代わりをいれようとして、
 でも、君がこっちに来て。

「やっぱり、まだちょっと寒い?」

 聞くと、何も言わず、君はにっこり。
 いつもの様に、僕の膝の上に招き入れて、
 まだつかっていないフォークと、空っぽのコップ。僕のやつの横にちょんと並べ。

「今日は特別、でも、まだちょっと待ってね」

 君のコップにお代わりを注いで、
 僕の言う事聞いていないのか、また飲もうとする君を制して。

「ちょっとまって、ね?」

 そう言って、真中に置いた箱の上を引っ張る様に持ち上げて、
 中から出たものに、君が嬉しそうにフォークを構えて。
 僕がそれを一回置かせて。

「こっちが先」

 君に微笑み、ケーキの箱の横に入った、何本かのろうそくとって、
 少し悩んで、決めた。

 ピンクと、茶色と、黄色と、水色。

 四本のろうそく、火をつけて。

「さ、どうぞ」

 今日で、本当は忙しくて逃しちゃったから、今日。で四回目の君のおたんじょうび

 思い出して、慌てて明かりを消して。
 揺らめくひを前に、君が膝の上で立ちあがり。

「ありがとう」

 僕の声と、君の息が重なって。
 ふっとろうそく吹き消され、

 君の頭がどかされて、僕に見えたのは、
 

 ケーキの上に一本だけ、消えずに残った水色のろうそく。


「ありがとう」

今日は君らの誕生日、

君が僕とであった日、

君らと側にある事に、

ありがとうを言う日。


もう一度

「ありがとう」

この作品について
タイトル
アリガトウ
作者
初回掲載
週刊チャオ聖誕祭記念特別号