リンゴに響くのは銃の声

 チャオが外を眺めているのを、僕もまた眺めていた。休日の昼は暇だ。かといって無理に何かをする気も起きず、なんとなく一日を過ごすことがほとんどだ。今日もまた、そんな日だった。
 チャオがこちらを振り向いた。僕と目が合うが、なんとなくこちらを向いただけという風に、また外を向いた。そろそろ買い物にでも出かけようかな、と思った。
 近所のスーパーに出かけ、ピーマンと玉ねぎ、にんじんと豚肉を買い、家に帰る。夕飯の準備をしている間、チャオはまだ外を眺めていた。僕が夕飯を作り終わって、チャオの晩ご飯のリンゴをテーブルに置くと、動き始めた。僕は野菜炒めを食べ、チャオはリンゴを食べた。
 次の日の朝、僕はチャオと買い物に来ていた。チャオを連れてきたのは、チャオの食料が少なくなってきたので食料を選ばせるためだ。だが、実際はあまり意味がない。チャオは何でも食べるからだ。まさに一応連れてきただけなのだ。
 果物売り場で食料を買い物カゴに入れていると、向かいから声を掛けられた。
「お前もチャオのエサを買いに来たのか?」
 友人だった。彼もチャオを連れていた。ヒーローチャオだった。
「まあ」
 彼は僕の買い物カゴを見た。
「そんなに色々食えるのか」
「うん」
「俺のチャオは好き嫌い多くてさ。リンゴとバナナは大好きなんだけど、他のはあんまり食えないんだよ」
 そういって、僕のチャオを見ながらリンゴとバナナを自分の買い物カゴに入れた。少し驚いた顔をしながら、僕にいう。
「そいつ、大人か?」
「うん」
「そうか。そういえば、習い事はさせてるか?俺は自分がドラムやってるからドラムを教えてるんだけど」
「いや、特には」
「なんかやらせたほうがいいんじゃないか?つまんないぜ」
 そんなこといわれても、と思ったが口には出さなかった。僕はリンゴを手に取った。
「あ、ちょっと待て」
 彼は僕のリンゴを取ると、指で弾いた。そのリンゴを戻し、売り場にあるリンゴをいくつか弾いて、そのうちの一つを僕にくれた。
「これがいい。間違いない」
「そうなんだ」
 僕はそのリンゴをカゴに入れ、買い物を終えた。
 その日のチャオの昼ご飯は、彼が選んだリンゴだった。リンゴを食べ終わったのを見届けると、僕も昼ご飯を食べた。
 チャオを見ると、やはり外を眺めていた。

この作品について
タイトル
リンゴに響くのは銃の声
作者
ダーク
初回掲載
2012年4月14日